多くの人が『人との対話』に苦手意識を抱いている。できればすべてメールですませたいという人すら。残念ながら「人と話すこと」をゼロにはできない。仕事となればなおさら。いったいどうやって克服すればよいのだろう。
答えは実はシンプル、あなたの発するひと言を変えるだけだ。周囲を緊張させたり、気持ちを萎えさせたりするNGな言葉から、その場の空気をあたたかくするひと言、自然な会話を生む言葉へと切り替えてみよう。
そこでいま話題を呼んでいるのが、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた人気ファシリテーション塾塾長の中島崇学氏の著書『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』だ。
今回は、同書から特別に抜粋。話し合いの冒頭で、「今日は無礼講なので自由に話しましょう」という人が見落としている人間の心理を紹介する。
適度なルールが心理的安全性を高める
ルールには自由を縛るような側面もあるので、事前に決めることを敬遠されがちですが、じつは適度なルールがあったほうがのびのびと、リラックスして話に集中できるのです。ルールがあることで「心理的安全性が高まる」とも言えます。
スポーツがそのよい例です。ルールがあるからこそ、その範囲内で自由にボールを蹴ったり、走ったりできるのです。
「オフィスの整頓について、できるだけ多く意見を出し合う」「どう整頓するか意見をまとめて結論を出す」など、目的とゴールに応じてルールは変わります。
しかし、ルールを示す理由は常に同じです。
●理由1 参加者が会議の目的に合意し、ゴールにたどり着くため
●理由2 のびのび集中する空気にするため
「無礼講」と言われると人は身構えてしまう
しかし、「自由に発言していい」と言っても、それだけでは真意が伝わりません。
×「今日は無礼講です」
これは典型的かつ古典的な×の言い方です。打ち上げ会や納会などで使われる決まり文句ですが、あまりにも昔から使われていて効果がなくなり、今日では逆の意味が生まれてしまいました。
「無礼講をうっかり信じてホンネを言うと、地雷を踏むぞ」と身構える人も多く、心理的安全性どころか、「忖度しろ!」との警報発令になってしまうことも。
さらに、Z世代など若い人だと「えっ? ブレーコーって何?」と、意味が通じない可能性も……。
「自由になんでも言っていい」だと不安になる
それをひと工夫したのが○の言い方です。
○「今日は何を言ってもOKです」
しかし、この言い方でも「無礼講」と同様に受け取られる危険性があります。それに、人は「自由に何でも言っていい」と言われると、かえって言えなくなるもの。無制限に対して疑心暗鬼になり、不安になってしまうのです。
制約があるほうがアイデアが出る
ところが、「今日のルールは」と明確に伝えれば、ルールに守られた雰囲気になって不安が消え、発言できるようになるのです。
◎「今日のルールは人の発言を絶対に否定しないことです」
「誰の意見も否定しない」というルールを明確に伝えて、自由に発言できる場をつくりましょう。
さらに、「このルールの中で発想してください」と制約を加えるほうがアイデアがたくさん出る、という成功事例もあります。
たとえばGEヘルスケアという会社の心電計は、「1回1ドルで検査ができて、バッテリー稼働で、持ち運べる重さ」という厳しい制約があったからこそ、エンジニアたちが工夫し、画期的な大ヒットとなったといいます。
人型ロボット「ペッパーくん(Pepper)」元開発リーダーの林要さんは、著書『ゼロイチ』で、「制約があるから脳が動き始める」と言っています。