2023年10月に突如始まったハマースらパレスチナ武装勢力とイスラエルの紛争は、米国や国際社会の政治に大きな影響をもたらしている。激しい戦闘が行われているガザ地区は、今後どのような展望をたどることになるのだろうか。特集『総予測2024』の本稿では、戦闘終結後のガザ地区の統治をめぐる三つのシナリオについて解説する。(慶應義塾大学法学部教授 錦田愛子)
イスラエル軍による実効支配の可能性も
ガザ統治三つのシナリオ
2024年度の中東情勢は、パレスチナ自治区ガザを中心とするパレスチナ・イスラエル紛争の戦後秩序の再構築を巡り、米国や国際社会を巻き込む大きな転換の時期を迎えそうだ。
23年10月7日に始まったハマースらパレスチナ武装勢力による奇襲攻撃と報復戦争以前、ガザ地区はイスラーム主義政党ハマースの統治下にあり、これに反発するイスラエルにより16年間にわたる人流と物流の制限が行われる封鎖と経済制裁の状態に置かれてきた。だが今回の戦闘を受けて、イスラエルはハマースの壊滅を目標に掲げ、軍事能力と共に統治能力も奪うと宣言している。そうなれば、戦闘の終結後はガザ地区を統治する新たな政治体制を構築する必要に迫られることとなる。
今後のガザ地区は誰が統括するのか。
次ページでは、ガザ地区の統治における「三つのシナリオ」を解説する。ガザ地区の統治者については、パレスチナ自治政府による統治やイスラエル軍による実効支配、第三者組織による統治などが考えられるが、いずれのシナリオについても課題が存在すると筆者は指摘する。その問題とは。