村岡 それもあります。ただ、ルーツをたどればコーヒー豆の買い付けも同じだったんですよね。コーヒー豆の相場は、数字を見て予測するのですが、実はそれ以外の定性的要素がものすごく影響するんです。なので、定量と定性を考えるクセがついていると思います。 

ネスレ流「イノベーション」を起こす方法

徳力 社会人として、量と質の両方を見ることを鍛えられていたんですね。では、これからデジタルマーケティングに携わる人は、村岡さんのような経験がない状態で、どうすれば数字だけに囚われない感覚を身に付けられると思いますか。

村岡 私がいつも部下に対して言うことは、「これは誰のためにやっているのかを意識する」ということです。誰の生活を良くしたいのか、これをやれば誰の何が変わるのかを詳しく聞くんです。そうすると、「人」軸で考えるようになり、数字だけに囚われない発想が生まれやすくなると思います。

徳力 ネスレ日本の社長である高岡浩三さんが、顧客が気づいていない問題を発見して解決する手法として「ニューリアリティ・プロブレムソルビング(NRPS)」というメソッドを提唱されていましたよね。

「人」を軸に考える

村岡 はい。まず自分にとっての顧客が誰かを明確にして、次に顧客の問題は何かを考えます。そして、顧客自身が意識していないレベルにまで踏み込むことが必要です。

 例えば、暑いからエアコンのスイッチを入れようというのは、意識しているレベルの発想。一方で、そもそも電気代をかけずに涼しくすることはできないかと考えて、それを新しいテクノロジーで代替するとしたら、と考えることがニューリアリティです。

 こういう考え方をすると、イノベーションにつながるアイデアが生まれるんです。ネスレでは、全社員が一生懸命に取り組んでいます。

徳力 そうやって「ネスカフェ バリスタ」や「ネスカフェ アンバサダー」、「キットカット ショコラトリー」が生まれていったのですね。何にでも使える普遍的な考え方だと思います。

村岡 なので、他社の方から、「これってどうやって進めているんですか」と具体的な手法をよく聞かれるのですが、それにすごく違和感があります。そもそも誰をどうしたいのかが抜け落ちているな、と。そうすると、どんどんデータからしか考えられなくなってしまって、人が見られなくなるんですよね。

>>4月16日(木)公開予定の後編に続きます。