「スタートアップと大企業の連携では、スタートアップのスピードとアジリティを大企業に移植するという効果が非常に大きい。共同で様々なプロジェクトを進めることで、担当者の顔つきが日々変わっていく。それだけでも投資する価値がある。もちろん、大企業ではなかなか開発できない小回りの効くような技術や革新的なアイデアが得られることも重要だ」(牧浦氏)
コロナでさらに高まる「宅急便」の社会的意義
ヤマトにとって2020年度は大きな経営構造改革を行う上での助走期間だ。2021年4月、現在は純粋持株会社であるヤマトHDはグループ会社8社を吸収合併および吸収分割することにより、リテール・地域法人・グローバル法人・EC の4事業本部と、4つの機能本部からなる事業会社へと移行する。
そのような「準備の年」に世界を襲ったのが新型コロナウイルスの感染拡大だ。多くの国民が緊急事態宣言による外出の自粛を求められる中、Uber Eatsなどフードデリバリーやヤマトの「宅急便」など宅配のニーズは高まっている。
「我々にとっては戦いだ。日本の物流インフラを担う会社としては止まるわけにいかない。サービスが止まると本当に困ってしまう人が多い。同時に社員の健康も守っていかなければならない。非常に難しい戦いだ」(牧浦氏)
ヤマトでは、航空貨物便の減便等の影響で地域によっては配達に遅れが生じているほか、一部の営業所において受付業務を臨時休止している。ほか、3月3日より、自宅での非対面による受け取りや、オープン型宅配便ロッカー「PUDOステーション」の利用を推奨している。
牧浦氏は「人間と人間の関係性に大きな影響があった。人と人との接触に関しての許容性が変わってくると思う」と語る。
「我々は当然、コロナを予見できていなかった。だが、そこ(宅配における人と人との接点)は変わることを予見して構造改革に挑んでいる。 スタートアップへの投資はその構造改革の一環としてやっている」(牧浦氏)
今後の経済の不透明感から、大企業はコストカットのために投資を抑えるとの見方もある。米CBインサイツによると、2020年1月から3月期における世界のCVC投資額は、前4半期比で13パーセント減。投資件数は19パーセント減となった。
牧浦氏は「コロナはリーマンショック以上だと思っているので、じっくりと仕込んでいきたい」と話す。
一方で起業後にネットバブルやリーマンショックを乗り越えてきた百合本氏は「コロナによる谷は深いが、投資をきっちりと継続することが次に繋がっていく」と述べる。