理解されなかった「デザインファームの資金調達」

 一番の失敗というか、困難というのは、デザインの受託から自社事業をはじめた時期のことです。

 デザインファームとしての受託事業がスケールしていないというわけではありませんでしたし、そもそも起業したときに、外部から資金を調達するということも知りませんでした。そこからリスクマネーを集めるルールが分かってきたので、それにチャレンジしたわけです。

 振り返って見れば結果はよかったのですが、当時、「デザインファームが資金調達するなんて、突然何を言い出すんだ」という反応がありました。

 当時、社内のメンバーは20人ほど。もちろん文句のあるメンバーもいたと思うのですが、直接考えを話すと理解してもらえました。ですが、社外の人からすれば、「え、なんで?」という反応が返ってきたんです。

 僕らのミッションは「場の発明を通じて。欲しい未来を作る」ということ。場作りというと、大きな、リアルの場所を作る、演出すると考えがちですが、リアルと情報空間を結ぶことも場作りです。あるいは、FacebookもInstagramも言ってみれば場作りです。そういう意味では、cowcamoのように人々の生活を支える場を発明するのは、僕たちのミッションだと言えます。

 この領域はいまだに大きな“不"があって、一方でこれまでの事業で“土地勘”があるところです。2016年に中古と新築のマンションの供給数が逆転して、中古マンションの時代がやってきました。マーケット(市場)、オポチュニティ(機会)、ケイパビリティ(能力)が僕らにとってそろったタイミングでした。ですが、それが外に伝わらなかった。

認知は上がったが、理解されていなかった

 このあたりの失敗の理由は、会社の認知度を上げることだけにこだわりすぎたことだと思っています。僕たちは資金調達や取り組みについては発信していたんですが、当然それだけではダメだったんです。

 会社の認知度こそ上がったのですが、理解度は上がっていなかったんです。入社を決めた社員に対しての「嫁ブロック」「親ブロック」――つまり家族が反対するということもありました。投資家についても、結果として自分たちのことを信じてもらえる人だけに頼むことができましたが、先方から「会いたい」と言われて会った投資家に、成功するのか疑問視されることもありました。

 我々にとっては起業からの延長線上にある出来事でも、外から見るとストーリーが理解されていなかったんです。だから最初は、「デザインの人が資金調達しちゃった」とも思われましたし、cowcamoも「本気ではない、趣味のサービスではないか」と思われてエンジニアが集まりませんでした。投資家や新しい仲間に理解してもらい、信じてもらうことができていなかったんです。