氷屋3代目の“冷凍愛”が生み出した「フードロス」解決法特殊冷凍と一般冷凍での細胞の差 画像提供:デイブレイク
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 デイブレイクの強みである特殊冷凍技術の秘密は、冷凍速度にある。肉や魚など水分を含む食材は、時間をかけて凍らせると、細胞内の水分が大きな氷の結晶となり、周りの細胞膜を壊してしまう。その状態で解凍するとドリップ(旨味成分)が流れ出てしまうのだ。しかし、特殊冷凍技術では、食品が凍る温度帯(マイナス1~5度)を急速に通過することで、氷の結晶を小さいまま保てる。結果として細胞が破壊されず、食感や味わいなど美味しさを保つことが可能なのだ。

「特殊冷凍だけでなく保管方法が非常に難しいです。温度や包装の仕方など、保管時のわずかな環境の差で賞味期限が1年以上変わってしまうこともある。そのため、何年もかけて比較と検証を繰り返し、冷凍と保管のノウハウを蓄積しました」(木下氏)

東南アジアで見つけた“冷凍愛”ビジネス

 木下氏は、老舗氷屋の家庭に生まれた。元々70年前に、木下氏の祖父が神奈川県横須賀市で創業、現在は父が家業を引き継ぎ、官公庁やコンビニエンスストア向けに、冷凍冷蔵設備の設置・保守業務を行っている。

「本来であれば私が3代目社長になるのですが、ずっと昔から抱いてきた“自分にしかできないことをやりたい”という思いを形にしようと一念発起しました」(木下氏)

 そこで、親の反対を押し切り、ITに明るかった友人の守下和寿氏(現・デイブレイク副社長)と一緒に、ビジネスのヒントを探るため、東南アジアに渡った。

「当初は東南アジアの経済を見るつもりだったのですが、道で売られている果物が気になりました。日本では見かけない珍しい果物が山のように並んでいるのに、衛生状態や保存方法が悪いので、傷んでどんどん捨てられていく。今でこそ、“フードロス”だといわれますが、当時の彼らにとってはそれが当たり前で、捨てている意識すらなかったと思います」(木下氏)

 そこからヒントを得て、 これまで携わってきた“冷凍”の分野を“IT”と掛け合わせるビジネスを思いついた。しかし、家業で扱っているのは一般の冷凍技術。果物を新鮮なまま凍らせることのできる特殊冷凍技術は、まったくの専門外だった。

「特殊冷凍技術を使えば、フードロスを削減できるかもしれないとわかっても、特殊冷凍機メーカーとのコネクションはまったくない状態。完全にゼロからのスタートでした」(木下氏)

 そこから地道に特殊冷凍機メーカーへ1件1件テレアポを行い、まずは1社、代理店権利を得た。そこからさらにライバルメーカーにも複数社声をかけ、冷凍機業界で初めて、比較販売のできる代理店を目指した。「当初は売り上げが下がることを懸念して比較販売を快諾してくれないメーカーも多かったのですが、顧客の立場に立ったセールスをするべきだと伝え続け、やっとの思いで比較販売のビジネスモデルを成立させることはできた」と木下氏は語る。