“メディアとしての実店舗”で濃いユーザー体験を提供
PostCoffeeの正式サービスを開始するにあたって実店舗も構えた狙いについて、下村氏は次のように説明する。
ひとつは、ユーザーにリーチするチャネルとしての価値だ。「D2C(Direct to Consumer:メーカー直販EC)の文脈では、2017~18年まではSNS広告がユーザー獲得のための主なチャネルだった。それが2019年ぐらいから高度化して、CPA(ユーザー獲得のために必要な単価)が上がっている。SNSでも引き続きアプローチはしていくけれども、よりチャネルを増やしたいと考えた」(下村氏)
米国の例でも、ベッドマットレスのD2C事業を営むIPO目前のユニコーン企業Casperが、すでに北米で約60の実店舗を開き、今後数年で200店舗の展開を予定している。日本でもアパレルなど、D2Cブランドが商業施設にポップアップストアなどを出店する流れは最近、加速している。「PR、マーケティングを考えたときに、実店舗を展開することが一番フィットした」という下村氏は、実際にコーヒー店を経営した経験も踏まえて「店舗はメディアになる。ここに挑戦したいと考えた」と語っている。
また、サブスクリプションサービスでは、いかに継続購入してもらうか、いかにアップセルできるかがサービス成長の指標となる。実は、これらの数値は実店舗での体験と相性が良い。「オフラインで接触した顧客のLTV(Life-Time Value:顧客生涯価値)は、オンライン顧客の3倍以上になるというデータもある。実店舗を訪れた顧客は、体験濃度が濃くなる」(下村氏)
下村氏が、店舗開設の一番の狙いとして挙げたのが、「濃いユーザー体験を提供する」ことだ。「店舗で試飲や淹れ方の体験を通じて『コーヒーって面白い』と思ってもらい、さらにSNSにアップして共有してもらえればいい」(下村氏)
スペシャリティコーヒーは「家で飲む」時代に
大量生産のファーストウェーブ、スターバックスなどシアトル系コーヒーチェーンで広まったセカンドウェーブに続き、ブルーボトルコーヒーなどの台頭で、日本にも広まったサードウェーブコーヒー。下村氏はサードウェーブコーヒーが「米国でははやりでなく、当たり前、普通のものになっている」という。
「D2Cの流れもあり、大量消費からエシカル、エコ、QOL(Quality of Life)を意識した消費がミレニアル世代を中心に広がっていて、これをさらにパーソナライズする動きへつながっている。コーヒーもライフスタイルに合ったものを、家で飲むようになってきている」(下村氏)