――数式の活用事例として、AIの言語認識、資産運用と投資、メタバース、スマホの音声変換、ロケット打ち上げ、自動運転、太陽光発電、マンデルブロ集合(自然界に見られる複雑な図形)など、じつにさまざまな分野が取り上げられています。

冨島:取り上げた事例に共通しているのは、「世の中を今まさに変えているまっただなかの技術」であることです。最近ではビッグデータが話題になったことで統計学がブームとなり、数式に触れる機会も増えました。そこで本書では、それ以外の領域でも数式がいかに活躍しているか紹介することにしました。

 その背景には、技術の急速な進展にともない、生活が便利になったり無駄な作業を減らせたりと、一般の人たちがその変化を享受したり、感じたりはできても、そのプロセス、つまり、何が起きているのかという部分についての理解からは遠く離れてしまう「ブラックボックス化」が進んでいることへの懸念がありました。

――確かに、Chat-GPTのようなAIなども、誰でも簡単に使うことができますが、あんなに自然な日本語の解答をどうやって生み出しているのか、よくわかりません。

冨島:まさにAIは「ブラックボックス化」の最たるものですね。コンピュータの発達によって、みんなが人工知能を当たり前に使うようになりつつありますが、そのことで社会人に求められる「教養の質」が変わってきたと感じます。AIや機械学習といえば、これまでは理系の研究者や仕事で関わる専門家以外には、ほとんど関係がありませんでした。しかし今やAIは、あらゆる仕事や学習のサポート役として、欠かせないものになりつつあります。

――学生もAIをレポートなどに活用しています。

冨島:そのとおりです。これからの社会を生きる子どもたちは、AIを使いこなすことが当たり前になっていきます。だからこそ、AIについて中身を何も知らないのはまずいと思うんです。なぜAIが問いに対して正確な答えを返してくれるのか、どんなロジックで動いているのか、基本的な仕組みを理解しながら使っていくことが、新たな教養として必要になる。例えば車の自動運転なども、社会に実装するには、エンジニアや政治家だけでなく、一般の多くの人が議論に参加することが必要です。そうした議論の上でも、「数式」に対する理解が基本となります。