近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏による『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が発刊された。本記事では、ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちをこれまで1万人以上指導してきた本多氏の考え方をまとめた本書より一部を抜粋・再編集してお届けする。

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人生が変わる1秒

 突然ですが、最初に1枚のシートをご覧ください。

評価シート

 さて、今見ていただいた1枚のシートはどんなときに使用するものかわかるでしょうか。もしわかる方がいたら、その人はお笑いの勉強をしている、もしくは、していた人だと思います。

 正解は、吉本総合芸能学院、通称「NSC(New Star Creation)」と呼ばれるお笑い芸人養成所のネタ発表会で私が独自に使っている評価シートです。

 実物はA4用紙1枚にまとまっていて、芸人志望者たちのネタを見ながら講師である私がチェックをつけていきます。いわば、お笑いの通知表のようなものです。

 皆さんの好きなお笑い芸人のネタをこのシートに当てはめてみるとどのような評価でしょうか。お笑い好きの方であれば、無意識にお気に入り芸人のチェックをしてみたくなると思います。

 これまで、多くのお笑い芸人たちが巣立っていったNSCですが、今も昔も「ネタ見せ」と呼ばれる発表会の文化は変わりません。それまでの授業で学んできたことをもとに生徒たちが、自分たちで考えたネタを講師と同期の芸人に披露することは、NSCの伝統になっています。ネタ見せでそれぞれの生徒に与えられる時間は2分間です。

 たったの2分間ですが、その2分でお笑い芸人志望者としての評価が決まります。「練習通りのことができる者」「緊張してネタを忘れてしまう者」「開き直って雑になる者」などさまざまな生徒がいます。

 それまで、どんな努力をしてきたかに関係なく、短い時間のなかで「自分たちがおもしろいかどうか」「お笑いの世界で通用するのかどうか」がはっきりとわかってしまうので残酷です。

 プロの世界ではなく、あくまで、お笑い芸人の「養成所」ですから、ダメだったからサヨナラということはありませんが、おもしろければ、次のチャンスが広がるのもまた事実です。優秀な生徒はNSCの担当社員と養成所の講師陣の目にとまり、必然的にメディアの露出、舞台に上がるチャンスも増えます。

 ですから、各生徒が、NSCで学んできたことを発揮しようと2分間、全力でネタを見せてくれます。

 しかし、実は持ち時間は2分あっても、評価するのには2分も必要ないことがほとんどです。大抵の場合、「たった1秒」で評価が決まります。