日本古来の製鉄技術の産物なのか!?

 そうした議論に、1つの模範解答を示したのは、古代の製鉄技術に詳しい工学博士の長谷川熊彦氏だ。長谷川氏は円盤を分析し、これが日本古来の製鉄技術である「たたら製鉄」の手法で造られたものと結論づけている。

 これは近世まで使われていた製鉄法で、木炭を使って砂鉄や鉄鉱石を低温加工することで、純度の高い鉄を生産できるのが特徴。一時期は国内の製鉄のほぼすべてを賄ったほど、高度な技術として広まったという。

 これが事実なら、たたら製鉄の発祥は5世紀もしくは6世紀とされているから、少なくともヤマトタケルの線は消えることになる。それでも歴史上の貴重な遺物であることに変わりはなく、謎の円盤は「金谷神社の大鏡鐵」として、1966(昭和41)年に千葉県の有形文化財に指定されている。

 ただし、この大鏡鐵がたたら製鉄の産物だとしても、何の目的で造られたものなのかという疑問は解決していない。教育庁が示す一応の見解としては、宮城県・塩竃神社にある製塩用の鉄鍋と形状が似ていることを根拠に、製塩に用いられた道具の一部とされているが、実物を目にした立場からすれば、いまひとつ説得力は薄いように思う。

 結局のところ、大鏡鉄の正体は今も謎のまま。鋸山付近には弥生時代後期の遺跡が散見され、住居跡や土器などが多数出土しているから、今後その正体を知らしめる新たな物証が発見されるのを待つしかないのかもしれない。

 不思議な円盤は、静かに境内の片隅でその時を待っている。

UFOの残骸か?ヤマトタケルの遺物か?千葉県・鋸山の麓に祀られる「謎の円盤」鋸山からの眺望。周辺では古代の遺跡が複数発見されている Photo by S.T.