頻繁な転職がもたらす5つの良いこと
まず、ポジティブな点について述べると、頻繁な転職は若手の優秀な人々にとって、多岐にわたる価値ある経験と学びの機会を提供する。このプロセスを通じて、彼らはさまざまな業界や職種で実務経験を積み重ねることができる。
たとえば、テクノロジー分野からマーケティング、あるいはスタートアップから大企業まで、幅広い領域での仕事を経験することで、異なる業務プロセスや組織文化の理解を深めることが可能になる。たとえ同じ業界の同じ職務であっても、会社によってプロセスや業務慣習は異なるから、多角的な視点と多様なスキルセットを身につけ、自身の持つ能力を高めることができる。
さらに、新しい環境への順応を繰り返すことで、柔軟性と適応力が大きく養われる。異なるチームやプロジェクトに迅速に適応し、多様な状況や課題に効果的に対応する能力が身につくのである。特に変化が激しい現代の職業環境において、それは非常に価値の高い資質となる。
また、異なる職場での勤務は、多種多様な背景を持つ人々との出会いをもたらす。プロフェッショナルなネットワークが拡大するため、将来のキャリアの機会も広がる。新しいコネクションは、新たな仕事の機会、ビジネスパートナーシップ、または学びの場を提供するのである。
このように、頻繁な転職は、キャリアに多様性を加え、将来のさまざまな可能性への道を開く重要なステップとなり得る。
たとえば、デイビッド・エプスタインの著書『RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる』(2020年、日経BP)でも、キャリアにおける多様な経験の重要性が強調されている。ここには以下のような内容が記されている。
<幅広い経験の価値>
著者のエプスタインは、キャリアの初期に専門化を行うよりも、幅広い経験を持つ個人のほうが、より創造的で革新的であると強調している。このような経験の幅は、異なる分野や視点に対する、より包括的な理解をもたらし、ユニークな洞察や問題解決のアプローチを可能にするという。
<遅い専門化>
著者は、多様な関心事や分野を探求した後に、何か一つのことに専門化することがより大きな成功につながると提案している。人生の早い段階で幅広い経験を積んで、個人が自分の真の情熱や強みを発見し、後の段階でそれにより効果的に集中できるからだという。
<適応性と柔軟性>
著者は、複数の領域での経験を持つ汎用性のある人々が、より適応性が高く柔軟であると指摘している。業界や技術が急速に変化する世界において、この適応性は重要なスキルとなる。汎用性のある人々は、新しい環境や課題に適応する能力に優れる。
<点と点の結びつけ>
著者は、多様な経験を持つ個人は、一見関連のないアイデアや概念の間の点と点同士を結びつける可能性が高いと述べている。異なる領域からの知識を統合する能力は、革新的な解決策や進歩につながりやすい。
<変動する市場での回復力>
著者は、幅広い経験が不確実な経済において職業市場の変化に備えることができる、と論じている。多様なスキルセットを持つことは、特定の分野が縮小または時代遅れになった場合に苦戦するかもしれない専門家に比べて、セーフティーネットを提供し、新しい機会を開くことができる。
『レンジ』では、今日の急速に変化し、相互に連携する世界においては、一つの領域しか知らない専門家になるよりも、幅広い探求的なキャリアを持つ“ジェネラリスト”を目指すアプローチのほうがより適していると述べている。
しかし、私は、このような幅広いキャリアパスには危険も伴うと考えている。特に頻繁な転職が他の人からどう見られるかについての潜在的な問題は無視できないものがある。