すぐに去る人物には会社も投資しない
ダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(2010年、講談社)では、著者は真のモチベーションのための三つの重要な要素として、自律性(Autonomy)、熟達(Mastery)、目的(Purpose)を挙げている。そして、熟達による満足を得るためには、時間、献身、そしてしばしば一つの役割や分野で長期間にわたる専門性の開発が必要だという。
しかし、頻繁なキャリアチェンジはこのプロセスを中断し、熟達に伴う深い満足感を得ることを困難にしてしまう。
会社側も、頻繁な転職歴を持つ人は「いずれ去る人物」として認識し、それが入社後のキャリアパスに影響を及ぼしやすい。すなわち、育成するコストをかけるべき人物とは見なされず、幹部候補とは考えられないのである。
したがって、特に劣悪な職場環境でもない限り、「石の上にも三年」の精神を持ち、生き急がない姿勢を持つことのほうが賢明だとはいえる(「終身雇用をせよ」と言っているのではない)。一定期間、同じ場所で粘り強く働き、しっかり成果を出し、スキルや経験を深めることは、専門性の向上、信頼関係の構築、そして組織内での貢献へとつながり、結果的にはより充実したキャリアへの道を開くことにつながりやすい。また、社会は一般に考えられるよりも保守的な傾向があり、頻繁な転職はまだまだ否定的に見られる。
ただ、それをわかりつつも新たな挑戦を試みたいという場合もあるだろう。そういった際には、ためらわずに思い切って転職に踏み出してみるのも良いと思う。
しかし、そのような場合でも、少なくとも、あなたを獲得するために会社が費やしたコストと給料分を合わせた額と同等の貢献を残してから転職してほしいというのが、会社側の偽らざる本音であろう。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)