故スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク。いずれも「天才」であり、多くの起業家が彼らを目指して必死に努力するが、現実は厳しい。そもそも天才とは? 彼らとバフェットの違いは? 「才能」と「天才」はどう違う? 天才は生まれか育ちか、練習か? 一心不乱に努力すれば「天才」になれるのか? ピアニストを目指して挫折した自身の経験や研究を基に数々の疑問に答えてくれたのが、クレイグ・ライト米イェール大学名誉教授(音楽史)だ。モーツァルトなど、天才音楽家について熟知し、『イェール大学人気講義 天才~その「隠れた習慣」を解き明かす』(すばる舎、南沢篤花・訳)の著者でもある同氏が、「天才」を徹底解剖する。(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)
天才をシンプルな方程式で表すと
「G=STD」
――まず、「天才」とは何か、教えてください。教授の著書によると、「才能と天才はまったく違うもの」だそうですね。
クレイグ・ライト(以下、ライト) 天才とは、並外れた精神力を持ち、その作品や洞察・見識が社会を大きく変えるような人物を指す。文化や時代を超えて世の中を一変させるような人物だ。
これは著書には盛り込まなかったが、天才を方程式でシンプルに表すと、「G=STD」になる。Genius(天才)=Significance(重要性)・Time Duration(時間の継続)だ。つまり、どれだけ長きにわたって、どれだけ多くの人々に大きな影響を与えたかで、天才か否かが決まる。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーの言葉を本の中で引用したが、「才人は、誰も射ることのできない的を射る。天才は、誰にも見えない的を射る」。実に面白い概念だ。天才は、社会がどこに向かっていくのかを見通し、社会に影響が及ぶような「変化」をもたらす。
天才と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、米テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスクや、米アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス、米マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツといったゲームチェンジャーだ。米国人が多い。
なぜか? 米国は、生きるも死ぬも自分次第という開拓者精神にのっとった国だからだ。“You eat what you kill.”という表現がある。「成果を上げた分だけ報酬が手に入る」という意味だ。米国には、この神話が息づいている。獲物が少なければ報酬も少ない。
現存する天才を1人選ぶとしたら、私の考えでは、間違いなくイーロン・マスクだ。電気自動車(EV)大手テスラに米宇宙開発企業スペースX、新バイオテック医療ベンチャー。彼は、守備範囲が広い博学の起業家だ。あらゆることを、人とは違う見方で考える。もっとも、道徳的な観点から見ると、非の打ちどころがない人物だとは言えないがね。
天才と人柄に必ずしも相関関係はない。私が研究した天才の大半は、人格的にとんでもない人間であることがわかった。自分の配偶者や、わが子の父親になってほしいとは到底思わないような人物だ。
――天才にはトラブルメーカーが多いと言われますよね。
ライト その通りだ。学校で「teacher's pet(先生のペット)」と呼ばれる子供たち、つまり、先生のお気に入りや、いわゆる「いい子」たちは天才ではない。天才になりうる子供には反抗的なタイプが多い。物事を人と違う視点で捉え、教師に対し、果敢にも異なる解決策を提案するような子供だ。
物理学者のアインシュタインをはじめ、天才たちは往々にしてそうだった。いわゆるトラブルメーカーだ。しかし、だからこそ、彼らは既成概念にとらわれることなく、問題を異なる方法で解決する。私たちの救世主だ。
――米著名投資家で大富豪のウォーレン・バフェットはお金もうけの達人ではあるものの「天才」ではないと、書籍の中で分析していますね。