なぜ企業は足元で採用活動を縮小させていたのか。その背景として、内外経済の先行き不透明感の高まりを指摘できる。海外は、不動産市場の調整などを背景に中国経済が低迷しているほか、米国や欧州などの先進国も利上げにより景気は減速気味だ。さらに、国内では昨年よりもいっそう賃上げ圧力が強まっている。企業にとっては、固定費の一段の増加につながる雇用の拡大に踏み切りにくい環境にある。
もっとも、足元の採用活動の縮小には別の側面もある。23年10~12月期の法人企業景気予測調査によると、重要度の高い設備投資項目として「省力化合理化」を挙げた大企業の割合は43.8%だった。これは、10項目の中で「維持更新(59.0%)」に次ぐ重要度である。23年度上期の設備投資が前年比で増加していることからも、企業は人手不足に対し、雇用の拡大ではなく設備投資の積極化で対応している姿が見て取れる。
経済全体で見ても、生産年齢人口が減少する中での雇用拡大には限界がある。この環境下、人手不足を根本的に解消するためには、省力化投資や情報化投資による生産性向上が不可欠だ。現在、企業の人手不足への対応が省力化投資や情報化投資に変化していることは、日本の生産性向上につながる前向きな動きといえる。
もっとも、人手不足の深刻さを勘案すると、足元の設備投資の水準は、労働力不足を補う上で不十分である。政府にも、生産性向上に向けた投資の支援が求められている。
(日本総合研究所調査部 副主任研究員 村瀬拓人)