「カイゼン」とは、トヨタ自動車が提唱した作業を効率化して生産性を向上する活動のことであり、企業の業種や規模に関係なく有効であるとされている。高校を卒業してから13年間トヨタの工場に勤め、カイゼンを実行し指導する立場にあった著者が「カイゼン思考」の重要性について語る。本稿は、川越貴博『経営課題をすべて解決するカイゼン思考 利益最大化・資金繰り安定・組織健全化』(現代書林)の一部を抜粋・編集したものです。
新人研修から叩き込まれた
「トヨタ式カイゼン」
当初、高校卒業後の就職は地元大阪でと考えていましたが、学校の求人票のなかに大阪の企業が見当たらず、大阪からいちばん近い場所で求人があったのが愛知県でした。
愛知県の企業のなかでは当時三菱自動車とトヨタ自動車があり、親の勧めもあって、トヨタ自動車に行くことに決めました。
トヨタ自動車では愛知県みよし市の工場に配属されました。大卒であればいろいろな部署を選択できますが、高卒の人間はほぼ100パーセント工場勤務が決まっていました。
配属された工場は自動車の足回り部品を作る工場で、私はエンジンやタイヤなどのボルト関係を製造する作業に従事することになりました。
そこで出合ったのが「トヨタ式カイゼン」でした。新入社員研修の時点からトヨタ式カイゼンを叩き込まれました。
カイゼンは、トヨタ自動車の創業期からの価値観をベースに従業員の行動規範としてまとめられている会社経営の根底にある哲学なのです。
たとえば、トヨタの思想の一つに「製造業は現地現物が基本」という考え方があります。現場・現物・現実を重視する「三現主義」という言葉もあります。
新入社員研修でも、工場に連れて行って現場を見せて、「あなたはどう感じましたか?」「どういうところが良くてどういうところがダメでしたか?」とこちらの思考を促すような教育が行われます。
現地に行って現物を見て触らせて「いまの状態はどうなのか」ということを考えさせます。そういうところからカイゼンを常に意識させる仕組みがあるわけです。
私が工場に配属されて最初に取り組んだカイゼンの活動は次のようなものでした。
工場内のある通路のスタッフが歩く動線に配線のコードがありました。コードは剥き出しで歩くのに邪魔だし危険でした。
そこで、人が躓いたり台車が引っ掛かったりしないようにと考え、コードにカバーを付けました。
これをすることで、実際に躓く人が減りました。台車が止まることもなくなりました。
注意することなくそこを通行できるようになったという改善効果がありました。これが私の最初のカイゼンでした。