新興国の富裕層向けビジネスは
中流層への広がりに欠ける

 新興国の経済成長が始まると、まず富裕層が登場します。新興国のファミリー企業などの中から、海外資本との提携を行って技術導入や製品輸入を行ってビジネスを伸ばす人たちが現れ、まだライバルが少ない状態のうちに先行者メリットを享受して、利益を稼ぐようになります。次に起業家たちが登場して、先進国にあったビジネスのアイディアを自国に持ち込んで利益を稼ぎます。国によっては、政府系企業などとのつながりの強い実業家が、利権をうまく獲得して利益を稼ぎます。このようにして、経済成長の初期に富裕層が登場します。

 こうした富裕層は、先進国の富裕層と同様の購買力をもち、先進国に留学や駐在した経験のある人も多いので、質の高さを重視する傾向があります。欧米的な生活へのあこがれもある人たちですので、欧米のブランド企業が有利にビジネスを行うことができます。価格的にも先進国の同様の水準で問題ありません。富裕層は海外旅行にも多く行くので、海外で買い物をすることも多く、その中で海外有名ブランドの商品をリピート購買するようにもなります。

 ただし、新興国の富裕層向けのビジネスは「一握り」の顧客を相手にするため、それほど大規模なものにはなりません。富裕層の周囲にいる準富裕層あたりまでは浸透するとしても、その先の中流層にまではなかなか広がらないということになります。

 中流層を相手にするには、まったく別のビジネスになります。新興国の中流層というのは、数は多いものの、年収100万円程度という水準なので、先進国市場と比較すると「段違いの安さ」を提供できる企業が有利になるのです。

新興国の中流層には
「段違いの安さ」で訴求する

 新興国の中流層(新中間層という言い方をすることもあります)とは、おおむね年収6000ドル(90万円)から30000ドル(450万円)程度の人々を指します。先進国でイメージする中流層よりは少ない年収です。この層というのは、(貧困層と分類される人たちが多い)農村部の若者たちが都市部に移住して、給与所得者となって年収を高めていった層ということになります。