大正製薬ホールディングス(HD)が昨年11月から行ってきたMBO(経営陣が参加する買収)が1月、成立した。同社の上原茂副社長が代表を務めるSPC(特別目的会社)の大手門株式会社が実施したTOB(株式公開買い付け)に、議決権ベースで73%強の株主が応じた結果、大正製薬HDは1月19日付でこのSPCの子会社となった。今後、TOBに応じなかった株主から株式を強制的に買い取る「スクイーズアウト」や、3月上旬に開催予定の臨時株主総会などの手続きを経たうえで、大正製薬HDは上場廃止となる。
非上場化のために大正製薬HDの経営陣が投じる金額は、周知の通り、国内では過去最大規模となる約7100億円に上る。メインバンクである三井住友銀行からの借入金で賄う。超低金利時代の終焉が近づくというバッドタイミングにもかかわらず、さらには同社中興の祖・上原正吉氏が掲げた「無借金経営」という看板を下ろしてまでも、株式市場から“おさらば”したいという強い意志を感じるのは、筆者だけではあるまい。
自他ともに認める国内OTC薬の雄が今般断行した買収劇に対しては、市場関係者のみならず、普段は穏健な経済メディアからも「評判」がすこぶる悪い。正吉氏の言葉を再び引用すれば、「紳商」らしからぬ振舞いと映るようだ。
もちろん、「紳商」なる造語には定義がないため、解釈には幅はあろう。それを踏まえたうえで各論評を最大公約数的に要約すれば、(1)少なからぬ欠点を内包するとはいえ、株式市場に後足で砂をかけるとは何様か、(2)上場廃止の理由をいろいろ連ねているが、本音は上原家の相続対策なのではないか──という2点に行き着く。大手門と言えば城の正門をさす言葉であるはずなのに、真相は、裏木戸レベルなのでは、との疑念が拭えないようである。いずれにせよ、「飛ぶ鳥」ならぬ「去る鷹」は後味悪い印象を広く残した。