企業が莫大な金額を費やす広告宣伝で、消費者は広告主の本性までを知ることはできない。広告の世界は、素晴らしい謳い文句で「お化粧」された姿が映し出される。それは企業にとって、世間からの「イメージ」がいかに重要であるかの裏返しで、イメージダウンが命取りになるのは、ジャニーズ事務所の性加害問題でも改めて証明された。
広告を熟知するOTC薬業界の盟主、大正製薬は「ラグビーワールドカップ2023」の公式サプライヤーを務めるなど「ラグビー普及を応援する企業」のイメージをつくり上げた。日本代表も手厚く支援し、世界に挑む桜の戦士たちの練習ウェアには、しっかりと「リポビタンD」のロゴがデザインされ、その宣伝効果は絶大だろう。露出度の高さから、国内トップの製薬企業と見間違えられることもしばしばある。
そんなイメージを大切にする大正製薬は8月4日、突如怒りを滲ませた檄文を公表した。これで「リポビタンD」の広告に長年起用していたプロサッカー選手の「キングカズ」こと三浦知良選手側と訴訟していた事実を、世間が知るところとなった。
概略はこうだ。三浦選手の管理会社ハットトリックがリポビタンシリーズの錠剤タイプの「リポビタンDX」の広告出演依頼を、「契約対象外だ」と拒否。直後にサントリーウエルネスの健康サプリメントの広告出演契約を結んだ。憤慨した大正製薬がリポビタンよろしく、法廷でのファイトを一発仕掛けたのである。
結論から先に言うと、公表文の通り、裁判所は「リポビタンDX」は「契約に含まれない」と判断し、大正製薬は負けた。それでも同社が事の次第を世に晒した理由は「このような事態が今後起こらないように」するためだという。声明では、裁判所の判断に対しても「業界の健全な社会常識に明らかに反する」と批判した。また、競合製品の広告に出演しないことを前提に、高額な契約金を支払うなどの「慣習」があると指摘。「業界の慣習を揺るがす事態」と警鐘を鳴らした。
訴訟の公表は、三浦選手を「不義理」と印象付ける効果もあった。ただ、大正製薬としてはあくまでも業界を思っての利他的な行動だったというわけだ。