「選ばれなくてよかった、と納得するまで、めっちゃ行ったり来たりしますよね」(川代)

川代 この本も「選ばれなかった君へ」というのから始まって、選ばれなかったからこういうことがあって、結局、選ばれなくてよかったってなるじゃないですか。誰かに認められようとしなくていいみたいに納得いくまでって、もうめっちゃ何回も行ったり来たりするじゃないですか。

阿部 とことんやりますね。

川代 私ってけっこう今まで、何かしたいことがあったら、勝つか負けるかしかないとか、それこそ選ばれるか選ばれないかしかないとか、二者択一、一つのパイをみんなで取り合ってるみたいなイメージがずっとあったんです。だから、私と同年代の誰かが活躍してると、自分が本来もらえるはずだったパイを先に取られたみたいな気持ちになったり、それでずっとモヤモヤっとした気持ちから抜け出せなかったりしたんですけど、最近になって、別に1個のパイを取り合うわけじゃなくて、「みんなで勝つ」方法もあるんだなって思い始めて。
 世界が固定の量しかないと思うと、それを取り合って、取り尽くすしかないという感覚になるけど、本当のところは別に、この世界も広がり続けてるわけだから、誰かがそれを取ったところで自分の取り分が減るわけじゃないみたいなことを最近思い始めて。それが自分の中では、承認欲求との戦いみたいなところで大事なプロセスだったなと思うんですけど、阿部さんはそんなふうに思うことって、ありますか? 

阿部 僕は20代の頃、「何かに選ばれないといけないんだ!」ってずっと思ってたんです。業界の新参者で、オセロで言うと自分が白だとしたら、辺り一面が黒みたいな状態で。どこかに自分の入れるスペース、自分の色を置けるスペースがないかとずっと探し回っていたし、見つけてもらいたいという気持ちで一杯でした。ところが、同じ志を持つ人と出会うことで、その盤面の色が少しずつ変わっていくような感覚があったんです。そのときに、選ばれるのをただ待つだけじゃなくて、自分から何かを選ぶことで、こうも目の前の景色が変わっていくんだと気づけて。同時に、目の前にあるオセロのマスは決まった数だけのように見えるけど、自分で領域を増やしていけるんだなと思えたんです。
 川代さんの居場所の話とリンクするのですが、居場所は自分で作ることもできるし、誰かと一緒に広げることができるんだと意識が変わったんですよね。
 広げるスタンスに気づけたときに、例えばSNSを見ていて、誰かが書籍を出して重版かかったという投稿をしていたとしたら、羨ましいなと思いつつ、でも、「おめでとうございます」と思えるようになったんです。読者の奪い合いじゃなくて、新しいものを広げていくことが素晴らしいなと。まあ、うまくいく人への羨ましさは心のどこかで持つものだと思うんですけど、素直に祝福できる自分にはなったんですよね。

さらけ出すように書くことで伝わるものがある川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。現在はフリーランスライターとしても活動中。著書に『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)、『元カレごはん埋葬委員会』(サンマーク出版)。