ユーザーと共に「サードヤマハ」を育てる

──コミュニティから生まれる新しいヤマハとはどのようなイメージでしょうか。

 一つ可能性として考えているのは、<SR>とか<セロー>のように、メーカーとして廃番にしてしまった後もたくさんの人が乗り続けてくれているオートバイを、ユーザーの中で生かし続けるためのシステムをコミュニティ内に作れないかと考えています。ユーザー同士で情報を融通し合ったり、私たちもそのコミュニケーションをサポートしたりする中で、Web 3.0とかDAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)といった新しいエコノミーが成立する可能性があります。

 民泊プラットフォームのAirbnbもコミュニティから生まれたエコノミーだと聞いています。Airbnbが強いのは、単なるユーザーの集まりじゃなくて、コミュニティ内でソーシャルグッドな価値観が共有されているからです。私たちでも、価値観を共有して価値を共創していけるコミュニティがつくれたら、音楽、モーターに続くコアバリューが生まれるのではないかと思っています。個人的にはそれを「サードヤマハ」と呼びたい。特にEV(電気自動車)のような新しい領域の製品では、「売った後」のサービスまで入れ込んだビジネスモデルのプロトタイプが必要だと思っています。

「戦略なき戦略」の先にある、次の「ヤマハ」の具体像を描く

──既に製品でつながっている熱いユーザーを多数抱えているわけですから、それを活用して鍛錬をより深めるためのモデルをいかに構築するかですね。

 鍛錬の過程って、例えば野球のイチロー選手だったら、少年野球で可能性に気付き、プロ野球から大リーグへと挑戦を重ねることで成長を楽しみ、選手としてのピーク以降はチームを変えたりフォームを変えたりしながら変化を楽しみ、最後は草野球で、ただ楽しむ境地に至るというプロセスです。もちろん、これは私の勝手な妄想ストーリーですが、これがいわば理想です。多くの人は成長が踊り場に来ると退屈してやめてしまう。その先にいざなってあげることができれば、もっと長く、深く楽しめるはずです。

 23年のジャパンモビリティショーには、楽器のヤマハと共同でブースを出しました。ヤマハ発動機は「鍛錬の娯楽化」、ヤマハは「人生の伴侶」というテーマをそれぞれ立てたんですが、つなげると「鍛錬を娯楽化し、人生の伴侶になるモノやコトを提供する」というヤマハブランドに共通するコンセプトになります。このプロセスにできるだけ寄り添いたい。

──先ほどの「戦友」っていうのも、まさに「伴侶」ですよね。

 「アシスト」ってコンセプトが効いてると思うんですよ。あくまで人間が主体だけど、アシストがあるから鍛錬できるし、娯楽にできる。私も3年前にマウンテンバイクを始めましたが、入り口は電動アシストタイプでした。アシストから始めると何がいいかというと、坂を楽に上れるから初心者でも練習量を確保できる。今後は動力だけじゃなく、AIやロボティクス、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)のようなテクノロジーでアシストして、「ハマる仕組み」を作ってあげるというアプローチもあり得ます。