タイ経済は内外需振るわず力強さ欠く、政府の利下げ圧力がバーツ相場の不安材料にPhoto:PIXTA

タイ経済が停滞している。インフレ抑制のための金融引き締めで多額の債務を抱える家計部門の消費は振るわず、輸入の増加、海外旅行の増加で外需も不振である。景気浮揚を図りたいセター政権は、中央銀行への利下げ圧力を強めることになるだろう。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

経済立て直しを
最優先するセター政権

 タイ経済は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国のなかでも経済構造面で外需依存度が相対的に高い。その上に、財輸出の約15%、コロナ禍前には外国人観光客の3割強を中国(香港・マカオを含む)が占めるなど、中国経済への依存度が相対的に高い。よって、このところの中国景気の減速懸念の高まりは景気の足かせとなりやすい。

 その一方、ここ数年の米中摩擦の激化やデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーン見直しの動きは、周辺国に比べて製造業のすそ野が広く、かつ厚い同国にとって対内直接投資の追い風になることが期待される。

 しかし、同国は少子高齢化を背景に生産年齢人口の減少局面が近付くなど、いわゆる『老いるアジア』の筆頭格のひとつであり、労働力の確保が難しくなるとともに、潜在成長率の低下が避けられず、対内直接投資の足かせとなることが懸念される。

 一昨年来の同国においては、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化が進むなか、世界的な商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨バーツ安も重なりインフレが上振れして一時は14年ぶりの高水準となった。

 よって、中央銀行は一昨年後半以降に累計2%もの連続利上げを余儀なくされたが、一昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡したことも追い風に、インフレは一転して頭打ちとなった。

 さらに、昨年5月に実施された総選挙の後は政治空白の長期化が懸念されたが、いわゆる『タクシン派』のセター政権が発足し、コロナ禍で疲弊した経済の立て直しを最優先課題に据える姿勢をみせている。

 次ページ以降、金融引き締めが続くタイ経済の現状を分析する。