美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、美術知識ゼロの編集者・林が、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』の著者であるご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏に「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく教えてもらいます。
肖像画は「理想化」でいい! 有名な「ナポレオンの絵」に隠された嘘とは?
林「うわ~カッコイイ! ナポレオンですね!」
山上「はい、この絵は誰しもが知る作品ですね。フランス革命後の混乱を極めるフランスをまとめ上げた若き英雄、という彼の肩書もこの絵を見る目を変えますよね」
林「ほんと憧れます。カリスマがあって容姿端麗、さっそうと馬を乗りこなすハリウッドスターみたいな英雄が本当にいたんですね!」
山上「…………」
林「あれ、おーい(汗) どうかしましたか?」
山上「あ…、いえ、もうどこからお話しようかと…(汗) まずですね、先に言ってしまうと、この肖像画、すんごい嘘なんですよ」
林「すんごい嘘…とは?」
山上「ナポレオンは「肖像画は身体的特徴を似せればいいというものではない。彼らの才能がそこに息づいていることが大切だ」ということを語っています。つまり、肖像画は「似ている」ことよりも、その才能を余すことなく表現するために「理想化」されることが大切と考えていたんです」
林「な…なるほど…。でも、そうだとしてもどの部分が嘘なんですか?」
山上「まず、こちらの絵をご覧ください」
林「ん…、誰ですかこのおじさん?」
山上「これがナポレオンです」
林「ええええぇぇぇ! こ…これがナポレオン…。僕の知ってるナポレオンの気配すらないですが…」
山上「ですよね(笑) 画家のダビッドはこのナポレオンを前に、よくこれほど優雅なナポレオンを描けたものだと感心してしまいますよ。ちなみに、彼は荒馬に乗っていますよね?」
林「はい! まぁ見た目はイケてなかったとしても、こうやって馬を華麗に乗りこなしているあたりに英雄性を感じます!」
山上「これも嘘です! これはサン・ベルナール峠を越えて北イタリアに入る途中を描いたものなんですが、その日ナポレオンが乗っていたのは馬ではなく、馬とロバの交雑種のラバだったとされています」
林「ラバ…。どんな動物なんだろう…」
山上「見た目は馬ではなくロバ寄りですね…。でもラバだと様にならないため、馬にしたと…」
林「なんと…。でもそれで終わりですよね? もう嘘はないと言ってください!」
山上「背景も荒れ模様ですが、実際にはいいお天気でした。後ろに大砲を運ぶ軍隊が見えますが、実際にはナポレオンは彼らに遅れて出発したのでこれも嘘。足元にいくつか名前が刻まれていますが、これも古代の英雄と自分を並べるための演出です。あとは…」
林「もう大丈夫です! こ…これ以上聞くと僕の中のナポレオン像が死んでしまいます!」
山上「あら、なんならまだ生きていたんですか?」
林「瀕死の重傷ですがなんとか…(涙)」
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』を元にした著者の書き下ろしです)