エネルギー問題における将来の見通しを持つためにも、世界の政治イベントの情勢分析が欠かせない上に、結果がもたらす意味を理解しておく必要がある。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、今年欧米で控える選挙とその影響予想を整理しておきたい。(エネルギーアナリスト 巽 直樹)
今秋の米大統領選挙の結果次第では、
エネルギー政策の前提が覆る可能性
今年は世界中の多くの国・地域で選挙が予定されている「選挙イヤー」だ。このうち世界の諸情勢に最大の影響を与えるものは、11月に本選が実施される米国大統領選挙であることに多くの異論はないであろう。これと欧州議会選挙が今年6月に実施されることは世界の公知であったが、英国や日本でも総選挙の可能性が高まりつつある。
EU(欧州連合)では今年2月6日、2040年のGHG(温室効果ガス)排出削減目標を1990年比で90%削減を目指すと欧州委員会が発表した。26年から本格運用が始まるCBAM(炭素国境調整措置)はEU-ETS(EU域内排出量取引制度)ともリンクし、これらカーボンプライシング関連による収入で温暖化対策として必要な費用の回収を見込む。
こうした欧州の取り組みは、ネットゼロ産業の欧州域外への流出防止策でもあるが、クリーンエネルギー技術の開発やEV(電気自動車)導入などの支援を行う米国のIRA(インフレ抑制法)への対抗策ともなっている。その米国での大統領選挙の結果と、その後の政治動向次第では、これまでの米国でのエネルギー政策の前提が覆される可能性が極めて高い。