岸田首相が訪米で
本当に話し合うべきこと
そして、この提言を現実化する動きはすでに始まっています。まず、日米安保で重要な役割を果たす米国太平洋軍の司令部はハワイにあります。ハワイと日本本国で連携するのは、実際かなり不便です。今すぐ太平洋軍の司令部を日本に前進させようという主張も日米双方にありますが、現在検討されているのは、太平洋軍の司令官は大将であるものの、中将クラスの高位の将官が日本に常駐し、実質上の同盟軍司令部を日本に作るという案です。
それに応じる形で日本側は、米軍と共同作戦を行うために、従来の縦割り司令部を改め、陸海空の自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」を24年末には創設することを決定しました。ただ、日本の統合作戦司令部のトップは海将、陸将などと特殊な呼称で、国際的には中将とも大将ともとれます。米軍も中将がトップとなると、日米共同作戦の指揮をどちらが執るかという問題が起きます(通常、階級が上の軍人がトップとなりますが、同格となる場合、米軍が日本軍を指揮下に置くという可能性もあるのです)。
4月8日から14日までの岸田総理訪米は、日本では半導体問題やUSスティールの買収問題ばかりがクローズアップされていますが、米太平洋軍の司令部の実質的前進という重大な外交的選択を行う交渉が、秘かに行われていることを報じる日本メディアは少ないはずです。
さて、小説では宮古島に上陸するための海図を中国の諜報員が日本の民間人から買い取ることから「侵攻の端緒」が描かれます。日本がどんな武器で、思いもよらない中国の侵攻を防ぐかは小説を読んでのお楽しみです。
ここまでの日米の軍事的連携を読んで、「とんでもない本」「とんでもない事態」と感じる人もいるでしょう。しかし、国民が何も知らぬまま、日米軍事同盟が勝手に深化してゆくことこそ問題があります。だからこそ、小説という形でリアルな日本有事を考えた上で、日本はどうすべきか考える。そういう本質的な議論が必要な時期がきました。
そのために、知り得た軍事機密を思い切り暴露したのが、この「小説」なのです。守秘義務の壁を破るため、麻生氏はいったん首都圏から出て、別の携帯電話でニュースソースと連絡をとって取材をするなど、大変な努力を続けてきました。その成果がこの作品であり、昨年、実施された日米秘密演習「ヤマサクラ」がモデルとなっているとのことです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)