大きくいえば、イノベーションを外から内に流入させる方向のオープンと、反対に内から外流出させる方向のオープンとがある。論理的にもこの二つがあるはずだが、日本においてはどちらかといえば外から内への流入の方に注目が集まってきた。

 まず、外から内に流入させる方向のオープン・イノベーションは想像しやすいだろう。

 これまでおこなってきた自社の中央研究所頼みの研究開発一本鎗の状況をあらため、他社の技術を買ったり、特許を相互にライセンシングしたり、業務提携したりする度合いを高めるということである。

 ただし、よく考えれば、自社の中央研究所での開発も継続しつつ、新たにこうした取り組みを始めるとすれば、これまで以上に研究開発費用が必要となる。そこで、内から外へのオープン・イノベーションが必要になるのだ。

 企業外部の技術を利用するにはお金がかかる。しかし、これを裏返せば、自社の技術を「お金を出してでも使いたい」という企業もどこかにはあるはずだ。

 そこで、自社の技術をライセンシング等々でお金に換える。これが内から外へのオープン・イノベーションである。その上で、そのお金を使って外の技術を内に流入させる。そうすれば追加の投資をそこまで必要とせずにオープン・イノベーション化が達成できるだろう。

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 これが現在流行しているオープン・イノベーションの概念であるが、ここまで読んで、どう思われるだろうか。

 もちろん、筆者もこのオープン・イノベーションの考え方自体は至極まっとうであると考える。現在の日本と世界にとって必要な流れであるとも思う。ただし、それとともに、果たして日本はこのオープン・イノベーションに遅れていたかというと、若干の疑問が残る。

 なぜならば、学習院大学の武石彰教授が『一橋ビジネスレビュー』に寄稿した「オープン・イノベーション:成功のメカニズムと課題」という論文が指摘しているように、むしろ日本企業の高度経済成長期を支えたのはまさしくこのようなオープン・イノベーションだったからである。