サーキュラーエコノミーの本質は「資源生産性」

 「買い換えから使い続けへ」とは、経済モデルで言えば「3R付き線形経済」から「資源循環経済」へとパラダイムシフトすることだと、妹尾氏は述べる。

 消費主導で「資源調達→モノづくり→モノ売り→モノ使用→廃棄」と直線的に流れるのが、線形経済(リニアエコノミー)だ。廃棄物が環境汚染などの外部不経済を生み出したことから、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の必要性が叫ばれ、3R付き線形経済となった。日本はまだこの段階だが、EUはすでに「生産→使用(再使用)→再生→生産」のクローズドループを描く循環経済(サーキュラーエコノミー)へのシフトを着々と進めている。

 「環境対策としての3Rは重要だが、それだけでは資源枯渇と資源争奪戦によって高まる資源制約から抜けられない。環境汚染と資源制約という両方の問題に同時に対処できる現実的な解は、いまのところ循環経済への移行しかない」

日本製造業のサステナブル&サーキュラーなビジネスモデルを考える【イベントリポート】産学連携推進機構
理事長
妹尾堅一郎 氏

慶應義塾大学大学院教授、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、九州大学客員教授、一橋大学大学院MBA客員教授などを歴任。現在も東京大学で大学院生や社会人を指導。日本生産性本部「循環経済生産性ビジネス研究会」座長。著書に『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 画期的な新製品が惨敗する理由』(ダイヤモンド社、2009年)など。

 1970年代に40億人だった世界人口は2023年に80億人を超え、2050年には100億人になると予測されている。今後、1人当たりの使用可能資源が極端に減少する中で、豊かな社会を維持するには「最小資源で最大価値を創出しなければならない。これがまさに製造業に課せられた最大の課題であり、それを乗り越えることが社会価値・社会貢献となる」

 つまり、「サーキュラーエコノミーの本質は、資源生産性を高めることにある」のだ。その本質に迫るには、資源を使わないで価値を形成する「モノつくらず(所有価値から体験価値・使用価値へ)」、脱「バージン材・新型・新品」のモノづくり、資源使用を最小化して価値を形成する「モノなくし・モノへらし」(品種・品目のリデュース)、使用の延伸とリユースを繰り返す「モノ使い続け・使い倒し・使い切り」、そして「モノもどし」(リサイクル)といった循環を前提に、すべてのビジネスをデザインする必要がある。

 たとえば、iPhoneの登場と普及によって、カメラやペン・メモ帳、音楽プレーヤーなどの生産・販売が減り、資源節約につながった。「素材を減らすのではなく、品種・品目を減らすのが真のリデュースであり、そこまでいけばイノベーションと呼べる」

線形経済=レッドオーシャン、循環経済=ブルーオーシャン

 多くの国では、2050年が循環経済の達成目標となっている。これは遠い未来の話なのだろうか。妹尾氏は、「けっしてそうではない」と断言する。

 循環経済は2050年に突如始まるわけではないからだ。2040年代には技術、制度、そしてビジネスモデルの社会実装が始まる。それに備えて、基本技術や周辺・関連技術などを押さえ、知財の整備や国際標準の仲間づくりと活用を進めなければならない。「特許権の存続期間が原則20年であることを考えても、いまから循環経済モデルへのシフトを始めなければ間に合わない」のである。

 さらに、「循環経済に至る“バトンゾーン”(現行モデルと循環経済モデルの併走期間)のビジネスモデルも構想しなければならない」と妹尾氏は付け加える。現行の事業・製品・サービスを延命させ、そこで稼ぐだけ稼ぎながら、移行期間を乗り切るわけだ。

 こうした移行戦略を実行するのは、簡単なことではない。しかし、「従来の線形経済で買い換えを促すのは、レッドオーシャン(過当競争領域)での戦いだ。対して、循環経済は未開・未到のブルーオーシャンであり、そこにこぎ出せば必然的にイノベーションになる。ビジネスチャンスの宝庫だ」。妹尾氏は参加者をそう激励し、基調講演を終えた。