ヨーロッパを中心に持続可能な循環経済モデルへの移行が加速している。こうしたパラダイムシフトの時代にあって、日本の製造業はどのようなビジネスモデルを描き、それを実装していけばよいのか。この大きなテーマについて考察を深めるためにダイヤモンドクォータリー編集部では、循環経済研究の第一人者と先進的な取り組みを行っている企業の幹部を招くセミナーを企画。2024年1月31日と2月29日の2回にわたって開催した。
*本稿は、2024年1月31日と2月29日に開催されたセミナー「日本製造業のサステナブル&サーキュラーなビジネスモデルを考える」(主催:ダイヤモンド社ビジネスメディア局、企画:ダイヤモンドクォータリー編集部、協賛:富士通)の内容を採録したものです。
「買い換えから使い続け」を加速させる3つの“衝撃”
製造業を中心に幅広い業界から参加者が集まったセミナーの冒頭では、「買い換えから使い続けへ:循環経済の本質と対策の基本を学ぶ」をテーマに産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏が基調講演を行った。
慶應義塾大学大学院や東京大学先端科学技術研究センターなどで研究と教育に携わり、現在も大学院生や社会人にイノベーションやビジネスモデルなどについて指導する妹尾氏はまず、「買い換えから使い続けへ」という世界的な潮流を象徴する3つの出来事を紹介した。
1つ目は、2022年に発売されたiPhone14である。先代モデルからカメラ性能が上がったほかは大きな進化はないという評判だったが、「専門家が解体してみると、中身のアーキテクチャーがまったく変わり、修理しやすい構造になっていた。アップルが、使い続けるビジネスへ軸足を移したことは明らかだ」(妹尾氏)。
EU(ヨーロッパ連合)では、「修理する権利」を保護するために、消費者の要請に応じてメーカーが自社製品を修理することを義務付ける指令案について政治合意した。DIY文化が深く根付くアメリカでも、修理する権利への支持が勢いを増しており、州レベルで法制化が進む。
2つ目は、服や靴などアパレル製品の廃棄を禁じる法案だ。EUの主要機関が2023年12月に大筋合意した。ファストファッションの台頭によって、2000~2020年にファッションアイテムの生産量は倍増し、その半分は売れ残って廃棄されたといわれるが、こうした大量廃棄と資源の無駄遣いが、法案成立から2年以内に実質的に禁止される。
そして3つ目が、2023年8月に施行されたEUバッテリー規則。EV(電気自動車)向けなど容量の大きいバッテリーは、EU域内でのリユース、リサイクルが規定され、「自動車で使えなくなったバッテリーを家庭用の予備電源や電動工具用としてリユースするなど、徹底して使い倒してからリサイクルするところまでが、企業の責務となる。これに対応しないと近い将来、市場からはじき出される」。