廃棄物を価値ある資源に転換する
循環経済に関連するTOPPANの取り組みは、動脈系では再生プラスチック、紙化推進、モノマテリアル(単一素材)化、静脈系では消費者認知促進、リサイクル技術開発などと幅広い。
同社では、循環経済の基盤となるCO2(二酸化炭素)排出量の見える化に20年以上前から取り組んでいる。「パッケージ原料の製造、調達、リサイクル、廃棄などライフサイクル全体を通したCO2排出量の定量評価を行い、それに基づいた最適な包装設計を進めてきた」(川又氏)。2023年9月には、CO2排出量算定システムの第三者認証をパッケージ、建装材、出版・商業印刷物など多品種で取得。同システムを使って誰でもCO2排出量を自動算出できるクラウド型システム「SmartLCA-CO2」の販売を開始した。
生活・産業事業本部 SX推進センター センター長
川又一浩 氏
1990年凸版印刷入社。2012年事業戦略本部事業企画部長、2014年生活環境事業本部営業本部長、2020年関西事業部営業本部長を経て2023年4月より現職。サステナブル・トランスフォーメーション(SX)事業開発とパッケージ開発を有機的に結び付けることで、サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルの推進に取り組む。
そのほか、川又氏が説明した具体的な取り組みを一つだけ紹介すると、世界最高水準のバリア(吸湿・乾燥・腐敗からの保護など)性能を持つ透明蒸着バリアフィルムの開発がある。金属(アルミ)を使わずに高いバリア性能を実現しており、リサイクル適性向上に貢献する素材として世界で発売されている。このバリアフィルムを使った「カートカン」は長期常温保存が可能な紙製飲料容器で、牛乳パックと同じリサイクルルートで回収され、トイレットペーパーなどに再生される。
POSレジスターや自動包装機、計量器などを主に流通小売業界向けに開発・製造・販売している寺岡精工の寺岡氏は、「当社では環境への取り組みはコストではなくビジネスを推進する力になると考え、誰もが参加できる活動を通じて、ステークホルダーとともに持続的に成長することを目指している」と切り出した。それを象徴するのが、小売業の店頭などに設置した同社のペットボトル回収機「ボトルスカッシュ」を入り口とした、資源循環の取り組みだ。
ボトルスカッシュに投入されたペットボトルは、独自のプレ裁断圧縮方式によって約3分の1に減容されることから、回収・運搬トラックの台数を減らすことができ、輸送過程でのCO2排出量が約67%削減(注1)される。回収した廃ペットボトルは再生利用されるが、再生樹脂を使用したボトル製造で排出されるCO2は、原油を使用して製造されたボトルと比べて約63%少ない(注2)。寺岡精工は資源循環のパートナー企業と連携しながら、ボトルスカッシュの設置台数を国内で約3700台まで増やしている(2024年2月末時点)。
注1)1日300本回収、月間30日回収、月間30回輸送、リサイクル工場までの距離30㎞という条件で寺岡精工が算定。
注2)協栄産業による算定(経済産業省「2010年版 ものづくり白書」144ページより引用)。
環境事業部 事業部長
寺岡由紀 氏
2004年寺岡精工入社。環境に配慮する製品の営業・マーケティングを担当。2021年より、環境事業部にてペットボトル回収機の事業に従事し、資源循環の取り組みを推進。2022年より現職。環境や社会の課題を解決する製品開発によって、消費者の行動変容と企業のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に寄与することを目指している。
ボトルスカッシュは、ペットボトルを網目状の特殊な形状にして減容する。寺岡精工はこの形状を意匠登録しており、減容されたペットボトルは廃棄物ではなく、資源価値のあるリサイクル材として取り扱うことができる。妹尾氏は、「廃棄物ではなく有価物にすれば、自治体をまたいで越境運搬できる。単にペットボトル回収機を売るのではなく、資源循環の価値を社会実装するスキームまでデザインしたことが素晴らしい」と称賛する。
これに対して寺岡氏は、現在のビジネスを築き上げるまで数々の失敗があったことを明かしたうえで、「当社にはいろいろなことにチャレンジする文化があり、面白いと思ったらまず動いてみる。うまくいかずに撤退することもあるが、失敗が多いほど成功に近づけると思って動いている」と、チャレンジを後押しする企業カルチャーについて述べた。
また、TOPPANについて妹尾氏は、「包装材で世界をリードしてきたTOPPANが、リサイクル処理が難しい複合材のモノマテリアル化に取り組むなど、“使い続け”へウイングを広げていることがよくわかった。今後は異業種や同業他社を巻き込んで、資源循環の社会システムの実装をリードしていくことを期待したい」とコメントした。
これを受けて川又氏は、「循環経済は、もちろんTOPPANだけでは実現できない。資源循環スキームを社会実装するには、法制化や標準化なども必要なので、政府や自治体、ライバル企業とも積極的に連携していきたい」と意気込みを語った。
パネルディスカッション後に最終プログラムとして実施されたのは、セミナー参加者と妹尾氏の対話型で進めるダイアローグセッションだ。最初の10分ほどを使って妹尾氏が、「なぜイノベーションは進まないのか」と題したミニレクチャーを実施。
それを踏まえて、参加者たちは複数のグループに分かれ、基調講演とパネルディスカッションで得た気づき、自社で循環経済にチャレンジしようとする際に直面するジレンマなどを共有。グループごとに妹尾氏への質問をまとめ、同氏がそれに答えていった。
質問に対して妹尾氏は、時に本質を突く逆質問を返したり、温かい励ましの言葉をかけたりと、実りの多い時間が過ぎた。
タフな課題に挑む時ほど、仲間の存在は心強く、励みにもなる。セミナー後の懇親会の場では、初対面ながらも同じ志を持つ仲間同士として交流を深める姿が見られた。
◉構成・まとめ|田原 寛 撮影|佐藤元一