ロングライフ化は、循環経済の王道

 「循環経済で変わるイノベーションとビジネスモデル」をテーマにしたパネルディスカッションでは、DXコンサルティングファームのRidgelinez 上席執行役員Partnerの赤荻健仁氏がモデレーターを務め、コメンテーターとして基調講演に続いて妹尾氏が登壇した。

日本製造業のサステナブル&サーキュラーなビジネスモデルを考える【イベントリポート】Ridgelinez
上席執行役員 Partner Manufacturing, Engineering & Construction Practice Leader
赤荻健仁 氏

自動車、産業機械、電機、建材、医療機器などさまざまな製造業のバリューチェーン最適化に向けた経営革新・業務改革・情報システム企画・導入のコンサルティングに長年従事。近年は成長戦略に向けたビジネスモデル変革などを手がけ、製造コンサルティングを主導。

 そして、パネリストとして壇上に上がったのは、1月31日が旭化成 執行役員サステナビリティ推進部長の徳永達彦氏と京西テクノス 専務取締役の大嶽充弘氏、2月29日はTOPPAN 生活・産業事業本部SXセンター センター長の川又一浩氏と寺岡精工 環境事業部 事業部長の寺岡由紀氏である。

 まず、それぞれのパネリストが自社の循環経済に向けた取り組みについて紹介した。

 マテリアル(化学品、電子部品など)、住宅、ヘルスケア(医薬品、医療機器)の3事業を主軸とする旭化成は、「Care for Earth」のスローガンの下、温室効果ガス(GHG)削減とサーキュラーエコノミーの2つを柱として、サステナブルな事業展開に取り組んでいる。

 徳永氏は、リサイクルしやすい素材開発、製品の長寿命化と中古品流通、社会との協働、リサイクル技術の開発といった持続可能な資源利用に関する旭化成の視点を紹介した後、具体的な取り組みについて説明した。

 住宅事業では、住まいの長寿命化に向けた計画的なメンテナンスのために60年間無料点検システムを実施しているほか、住みやすくて売却もしやすい標準的な間取りの規格住宅を開発、住み替え時の買い取り保証サービスをつけることなどによって中古住宅の流通を促進している。

日本製造業のサステナブル&サーキュラーなビジネスモデルを考える【イベントリポート】旭化成
執行役員 サステナビリティ推進部長
徳永達彦 氏

1988年旭化成入社。経営企画を中心に担当の後、2019年のサステナビリティ推進部の設置とともに同部長に就任。現在は、グループ全体の視点から、サステナビリティに関する課題、特にカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、GXリーグなどの環境テーマのほか、人権尊重、非財務情報開示などに取り組んでいる。

 自動車のエアバッグで使われているポリアミド66(ナイロン樹脂)については、自動車部品への再生を目指してホンダ(本田技研工業)と組んで実験・検証を行っている。また、プラスチックのリサイクルでは、化学メーカーや需要家から廃プラスチックを買い取り、分解油・再生ナフサとして販売するケミカルリサイクルのスキームを構築。2024年10月からの本格稼働を予定している。

 京西テクノスは、さまざまなメーカーの計測器・医療機器・情報通信機器など電子機器の遠隔監視・点検・修理・メンテナンスなどをワンストップで手がける「トータルマルチベンダーサービス」という独自のビジネスモデルを展開している。

 メーカー保証期間内での保守サービスだけでなく、メーカーサポートが終了した後も機器を使い続けたいという企業のニーズに応えるのが、修理・延命サービスの「KLES」(Kyosai Life Extension Service : クレス)だ。大嶽氏によれば、予防保全や再設計などにより、「どこまで延命できるかをユーザーと一緒に考え、累計3万台以上を修理してきた」。

 海外で使われている機器や装置を関西国際空港内の保税工場で通関コストをかけずに修理して送り返す、グローバルなサービス展開にも乗り出している。

日本製造業のサステナブル&サーキュラーなビジネスモデルを考える【イベントリポート】京西テクノス
専務取締役
大嶽充弘 氏

日本電気(NEC)で執行役員としてサプライチェーンおよび環境経営を担当。執行役員常務、監査役などを歴任後、2023年7月に京西テクノスに転じ、11月より現職。さまざまなB2Bメーカー製品の修理・メンテナンス(トータルマルチベンダーサービス)を通じ、3R+R(Refurbish)によるサーキュラーエコノミー型のサービス事業を牽引している。

 旭化成の住宅事業における取り組みについて妹尾氏は、「ロングライフ化は、モノづくり・モノ売りをサービスで武装したビジネスモデルで、使い続け・住み続けにつながる。ヨーロッパでも住宅と土木建築は、循環経済の目玉の一つになっている」とコメント。

 京西テクノスについては、妹尾氏が教える東京大学大学院でケーススタディとして取り上げており、「完成品の部品一つ、プラントの計測器一つが修理できないだけで、全体を延命できなくなり、資源の無駄と大きな買い換えコストが発生する。KLESは、循環経済向けサービスの王道だ」と高く評価する。

 赤荻氏から「循環経済に向け、技術開発でどう主導権を握るか」と問われた徳永氏は、エグゼクティブフェロー(執行役員相当処遇)を頂点とする高度専門職制度などを通じた人材育成の重要性に触れつつ、「どんな視点を持つかで、アウトプットが変わる。旭化成では5年ほど前から技術開発においても循環経済やカーボンニュートラルにフォーカスしてきた。EUの動きを見ていると、循環経済モデルに沿った製品でなければ事業を続けられなくなるという危機感がある」と述べた。

 京西テクノスの大嶽氏は、「日本で一番足りない資源は人。当社はメーカーから修理技術を学び、優秀な人材が育ってきた。現場に年齢は関係なく、70歳を超える現役社員もいる」と応じる一方、「過去の実績だけでは将来を展望できない。3~5年先のロードマップを描くのが当社のチャレンジだが、今日の議論に参加したことで素材まで踏み込んでさらに技術を磨けば、これまで直せなかったものを直せるかもしれないという気づきを得られた」と語った。