強みを活かしたテクノロジーの取捨選択

 では、日本はどのような強みを、どのように発揮していけばいいのだろうか。

 現在の日本には多種多様なテクノロジー、デジタル技術が企業や研究者の手元に届いている。問題はテクノロジーを忌避することではなく、多くの選択肢がある状況を是としてしまい、その中から特定のテクノロジーを取捨選択せずにいることであろう。

 世界との競争という観点から考えれば、日本として実装に注力できるテクノロジーを絞る方がよい。例えば少子高齢化(人口減少、労働力不足)という重たい課題、世界の産業における日本のポジション、また上述のようなロボットを受け入れる姿勢を勘案すれば、デジタルを掛け合わせる形でのロボットの活用はその最有力候補であろう。

 日本と欧米のロボット観の違いとそこからくるロボット導入への忌避感である。特に米国では、ロボットは自らの雇用を脅かす存在と捉える労働者が多く、当初は導入が遅れる傾向が見られた。

 しかし、日本では危険が伴う作業など人間への負担が大きい工程をロボットに代行させるところから始まるなど、人とロボットがいかに協働すれば生産性を向上させられるかという視点でロボット導入が進んだ。その結果、日本は世界に冠たるロボット大国となった。

 世界の産業ロボット生産における日本のシェアは46%と半数近い(いずれも2022年)。工場の外において使用され、人間と協業するサービスロボットの導入においても、日本らしいロボットの活用のあり方を提案できるはずである。日本が持つ、人間との共存を前提に社会の実情に合わせてテクノロジーの実装を考えられる柔軟性やハードウェアの強みを活かせる領域がどこか、という視点は常に持ち合わせておきたい。

日本だからこそ生み出せる
包摂性の高いテクノロジー

 少子高齢化と日本のテクノロジー受容という点について考えてみると、高齢者はテクノロジーの利用に消極的かつ不向きであり、今後も高齢者比率が上昇する一方の日本は、総体としてテクノロジー受容度の低い社会になっていくとの見方も直感的には可能であろう。

 しかし、PwCコンサルティングが2022年1月に実施した高齢化社会におけるテクノロジー活用についてのアンケートでは、新しい技術の受容度は30~60代のどの年代でもほぼ同様の傾向にあった。

 高齢者は必ずしも新しいテクノロジーの使用に後ろ向きではないのである。

 高齢者の多い日本には、包摂性を具備したユニバーサルデザイン的なテクノロジーを生み出す土壌があるとも言える。

 AgeTechとも言われる高齢者対応技術は、社会の中で最も身体面や認知面での能力が弱い層を想定したものであり、それは社会を構成するどのような層にとっても利用可能なテクノロジーであるとも言える。

 社会の最大の構成層である高齢者の状況を社会的な側面や身体的な側面などから多面的に理解し、テクノロジーの力でその生産力や判断力を下支えすることで、より包摂的な世界を実現することができるだろう。