笑われるようなバカげたアイデアの
一歩先に未来がある

yokosan

米田 マネジメント層と現場の社員、具体と抽象など、架け橋として双方をつなぐ役割を担っているのですね。日本企業でもこのあたりの溝に悩む企業は多いですし、大切な役割だと思います。それを担う、デザイン・フューチャリストに必要な資質は何でしょうか?

岩渕 これまでは、未来というと、科学技術が主導する未来像で、理工系の知識やスキル・人材が重要視されてきたと思います。もちろんそれらも大事だと思います。

 一方で、企業が持つ歴史や文化は千差万別です。過去にさかのぼって、組織や事業がどうスタートして、これまで何を大事にしてきたかを、未来に向かうために振り返る必要があります。また、「多様性」といった昨今のトピックについても、技術面だけでなく、倫理や社会学からの観点など、より広範で、学際的な議論の重要性が増しています。

 その意味では、これからの未来創造人材は、文系人材がより輝く時代ではないかと感じています。企業の哲学や歴史をひもといて、現在の時代に合わせて新しい解釈を導き出すことができる、人文学系の知識を核に、未来のビジョンをつくっていく。そのような視点が重要になると考えています。

 ロジカルな思考力や統計から未来予測するだけではなく、それをさらに超える、「常識外」の未来を思い描く想像力や、あえて非ロジカルなことを示すといったことも大事です。また、そうしたアイデアを受け入れる側も、ロジカルシンキングやでデータに縛られていてはできません。

 例えばほんの10年前は、「他人の空き部屋に泊まる」なんて非常識なことは、たとえ思いついたとしても、誰もやろうと思いませんでしたよね。しかし、今や「Airbnb」が世界中で当たり前のように利用されています。

 1990年代のテレビ全盛期に、テレビ関係者へ「近い未来、無名の個人が番組をつくるような、テレビを超えるメディアが出てきますよ」と言ったら、ぶん殴られたかもしれません(笑)。

 でも実際、インターネットが当たり前の世の中になり、若者はテレビよりもYouTubeを見る時代になりました。もちろん技術やインフラの進化はありますが、当時は誰も見向きもしなかったようなアイデアが現実化しているわけです。

 同じことがこの先の未来でも起こるでしょう。「論理的に考えてあり得ない」「お前、何を言っているんだ」と、今、捨てられてしまうようなバカげたアイデアの中に、未来のヒントはあるはずです。デザイン・フューチャリストはそこに注目します。今日の「非常識」が明日の「常識」になる。今の常識で考えて「それはない」と決めつけることを、いったん保留し、その一歩先を想像し、その思考実験を可視化してみることがすごく重要ですね。そこから、実現に向けた意外な突破口が開けることもあります。

米田 今後はどのような展開を考えていますか。

岩渕さん

岩渕 「気候変動」などの大きなトピックを扱うプロジェクトを増やしていきたいですね。短期的な利益や成果を追い求めることだけでなく、より長期的な目線で人々の生活様式を根本的に変えるにはどうしたらいいかということに、私たちのクリエイティビティをもっと使っていかなければならないと感じています。

 現在の価値観の中で、生活者が今困っている課題を改善していくだけでは、世の中の常識や価値観そのものを変えるような大きな価値提案はできません。しかし今は、インターネットを通じて、つくったアイデアや異なるプラットフォームを、全世界の人に提案できる時代になってきています。あとは、「自分たちの常識の範囲内でアイデアを出す」という座組自体を打ち破っていくことが、デザイン・フューチャーリストの腕の見せどころだと思っています。

米田 示唆深いお話をたくさん聞かせてくださり、ありがとうございました。

【取材を終えて】
 今回お話をお聞きし、「VUCA」といわれる時代の中で企業が事業を続けていくためには、「変化の兆し」を捉えていくことがさらに重要になっていくと再認識しました。未来洞察の視点は、事業そのものに新たな展開をもたらす一方で、人材という視点においても、「自信」や「やりがい」につながり、その企業の信頼を構築する一助にもなると、感じました。未来をデザインすることの重要性と、マインドセットのヒントを、今回の取材で得ることができました。