要因3:新計画を発表
逆に低価格車の投入を2025年秋よりも早めると宣言
このような状況の下で行われた4月23日の決算発表でイーロン・マスクCEOの口から驚くべき方針が発表されました。
これまでの報道とは逆に、テスラは低価格車の市場投入をこれまで公表していた2025年秋よりも早めると発表したのです。
これはあくまで推測ですが、メディアが低価格車の開発中止を報道した時点ではおそらくテスラ社内でそのような決定が一度下されていたのでしょう。なにしろ社員がそのようなミーティングに出席したと証言しているのですから。
もちろんイーロン・マスクが記事の直後にX(旧ツイッター)に「ロイターはうそをついている」と投稿しているので、2月の会議は最終決定ではなかった可能性はあります。
いずれにしても4月5日の報道を受けた世論の反応、特に投資家の反応とその後の株価の下落にテスラの経営陣は危機感を覚えたのではないでしょうか。
これもあくまで私が過去、大企業でのコンサルティングを通じて見てきた経験をもとにした推理ですが、テスラのような巨大グローバル企業の経営陣であれば誰でも「イノベーションのジレンマ」の理論は対策も含めて熟知している経営理論です。
にもかかわらず低価格車の開発計画をいったん中止にしたのは、おそらく低価格車の開発計画自体がうまくいっていなかったからではないでしょうか。
あくまで一般論ですが「生産コストを半減させる」というような意欲的なゴールをかかげた計画がうまくいかない場合は、それをいったん白紙にしたうえで別のアプローチを採る別のチームに一から計画を任せたほうがうまくいくものです。
ここから推測されることは、いったんテスラは低価格車についてはそう判断した。しかし株式市場の反応を見てそれを撤回したということです。
そこから一歩踏み込んで推理すれば、低価格車の発売を2025年秋よりも早めることができるのは、コスト半減へのこだわりを諦めたからでしょう。
つまり未来のEV市場からはじき出されないためにテスラは「生産コストが半分にはならない、言い換えれば計画がうまく進んでいない開発中の低価格車を、あえて発売することで中国のEVメーカーに対抗する」という戦略を、このわずかな間に意思決定したのではないでしょうか。
この要因3で述べた事柄はあくまで推測です。推測ではあるのですが、そういった事柄を考慮しなければこの短期間で経営判断が二転した理由は説明がつきません。それほど大きなサプライズだったということなのです。
今回の発表は、結果的にテスラにプラスに働くと私は考えています。
低価格車の早期投入で累積生産量を稼ぐことでコスト体質を強化しつつ、2027年頃に新たな本命としてこれから開発を始める低価格車が発表されるかもしれません。仮にそれをモデル1と命名しておくとしたら、そのモデル1こそがテスラの利益率をV字回復させる希望の光となるはずです。
テスラは一層激化する中国メーカーとの戦いでそれまで市場が予想していた「低価格車での戦いから逃げる戦略」から180度転換して「低価格車市場でのダイレクトな競争を選ぶ戦略」へと舵を切りました。
今後の成否はともかく、中国に対してそのようなファイティングポーズを見せたことがテスラの株価がわずか一晩で急騰した理由なのです。