いいですか?iPS細胞というのは細胞に遺伝子を入れる実験です。それとは違うのです。マウス個体に遺伝子を入れてしまうのです。そうすると死んでしまったので、ここで頭を働かせて、先ほどのc-Myc以外の遺伝子を一時的に発現させました。成長途上のある時期に一過性に発現させると、早老症のマウスが若さを取り戻して長生きしたというのです。これは本当ならすごいことです。もちろんこのような研究は追試しなければなりません。また人間に遺伝子を導入することもできるかどうか分かりません。しかし、遺伝子を使って若返りさせようという、ある意味、すごい研究です。

mRNAを再生医療に応用する研究も
遺伝子組換えによる若返りも夢じゃない?

書影『70歳までに脳とからだを健康にする科学』(ちくま新書、筑摩書房)『70歳までに脳とからだを健康にする科学』(ちくま新書、筑摩書房)
石浦章一 著

 遺伝子を一時的に発現させる一番いい方法は何かというと、皆さん気がつきますね。ご自分でもやったでしょう。それは、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンです。あれは、一時的に外来の遺伝子を生体内で発現させる行為です。遺伝子組換えを自分のからだで行っているのです(そういう人が「遺伝子組換え食物反対!」などと言っているのですから理解不能です)。

 話を元に戻すと、新型コロナのワクチンのようにmRNAを使って3つの遺伝子を一時的に発現させたらどうか。それだけではなく、老化を防ぐためにRIN28やNANOGという遺伝子を同時に使ったほうがいい、などという研究が行われているのです。これらの遺伝子の組み合わせによって若返りができるかもしれないという研究が、今、盛んに行われるようになりました。つまり、人間の老化を根本的に防ごうというわけです。

 山中先生の4つの遺伝子(山中因子)を使って、私たちのからだの皮膚だけではなくて、いろいろな細胞をiPS細胞にして、それらのiPS細胞から自分の好きな細胞を作る。そういう時代が来る可能性があるのです。そのときには、がんにならないためにどうしたらいいか、という研究もこれからすごく重要になるのです。