「幸せな監視国家」となった中国
民衆の大半は「共産党のままでいい」
舛添 国境を接しているので、今も当然、小競り合いはありますが、協力できるところは協力している印象です。アメリカとロシアを手玉にとって追い落とし、中国とインドで世界の覇権を握ろうと考えているはずです。
田原 中国国内では、習近平国家主席に対し「ゼロコロナに失敗した」とか、「中国の不動産バブルが危ない」とか、今後の中国を危ぶむ声も聞かれるようになったと聞きました。
舛添 コロナ禍の影響は今ではほぼリカバーされています。不動産問題はたしかにありますが、日本のバブル崩壊のように、金融機関がつぶれることはあり得ないと考えています。中国の銀行の全業種に占める「不動産業向け貸出比率」は6%(※1)で、残りの94%は健全だからです。
※なお、バブル崩壊直前の日本の全国銀行の「不動産業向け貸出比率」は約16%。ノンバンクは含まず
田原 政治はどうですか。
舛添 実際に訪れたことで確信しましたが、経済さえこのままよければ、共産党のままでいいと、中国の民衆の大半は考えています。
田原 僕は若い頃、日本共産党を支持していました。第二次世界大戦時、共産党は唯一、戦争に反対していたからです。
その共産主義の理想の国がソビエト連邦であるとのことで、大学卒業後にソ連を訪れてみると、言論の自由がまったくないことを知り、ショックを受けました。言論の自由のない国なんて、続くわけがないと思っていたら、案の定、ソ連は崩壊しました。
同じように、言論の自由がない中国もいずれだめになると思っていたのですが、習近平が実権を握った今も、だめにならない。なぜなのでしょうか。
舛添 やはり先端技術の使い方が大きいですね。
中国は先端技術を国民の監視に使っていますが、監視と同時に、ある意味、快適な環境を与えているんです。泥棒は減り、犯罪は起こらず、街もきれいになりました。政府に筒抜けなので政治の話題は避けていますが、中国のSNS「WeChat」は、日本で使われている「LINE」よりはるかに性能がいい。
田原 たとえ、中国に言論や表現の自由はなくても、中国政府が企業間競争を認め、経済成長が続く間は、民衆はそこはどうでもいいと思っていると。
舛添 昔のソ連と今の中国は違います。今はいわば、圧倒的に便利になった「幸せな監視国家」なのです。ジョージ・オーウェルの『1984年』のような、「ビッグブラザー」が君臨するディストピアとは違うのです。
日本人は昔のイメージで、今も中国を貧しい国だと思っている人が多いですが、それは30年前で時計が止まっており、恥ずかしいというほかありません。
中国は豊かになり、日本に不法入国して金を稼ごうという人は今はもうほとんどいないのに、中国人が訪日のための長期ビザを取得するためには、いまだ2000万円の預金残高の証明を必要としています。
中国人は来日すると、日本はデジタル化が進んでおらず、ところどころで現金が必要になる。なんと不便なのだろう――。こうした印象を持って帰国するという話も耳にします。
田原 中国の日本大使館は、そうした情報をアップデートしていないのでしょうか。