混迷の時代、経営トップの使命とは何か?マニー・マセダ(Manny Maceda)
イリノイ工科大学化学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院で経営学修士号を取得。1988年にベイン・アンド・カンパニー入社。アジア太平洋地域のリーダーを務め、ベインのフルポテンシャル・トランスフォーメーション、業績改善、企業再構築プラクティスのリーダーを歴任。2018年より現職。

ロシアのウクライナ侵攻や激化する中東での対立……世界秩序が不安定化する中、喫緊の課題と共通認識されていたはずのサステナビリティへの対処が遅れつつある。今、企業の経営者に何が求められているのか。世界のリーダーと議論を重ねてきたベイン・アンド・カンパニーのグローバル代表に聞いた。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮、撮影/瀧本 清)

絡み合った4つのチャレンジに
直面する世界

――マセダさんは世界経済フォーラムのダボス会議に毎年(通算6回)参加され、昨年2023年にドパイで行われたCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)にも出席されるなど、世界のリーダーとの議論を続けてきています。今日、世界が直面している状況を、どのようにお考えですか。

 世界のリーダーたちとの意見交換を踏まえて、私なりの考えをお話したいと思います。今、世界は、主に4つの面でチャレンジを受けています。1つ目はサステナビリティ(持続可能性)への対処、2つ目は世界政治秩序の激変、3つ目は生成AIの急成長、4つ目は金利上昇です。

 1つ目のサステナビリティへの対処について、世界はここ数年、特に気候変動対策に力を入れてきましたが、その他の3つの面でのチャレンジを受けて、再検討を迫られています。

 緊迫する脅威は、2つ目の世界政治秩序の激変です。周知の通り、ロシアのウクライナ侵攻、米国と中国の関係の不安定化、中東における対立激化などにより、世界は混迷状態にあります。

 3つ目の生成AIの急成長は、近年のデジタル技術の進歩という流れの中にありますが、機会と同時に課題をもたらしています。

 4つ目のチャレンジは、世界的に金利が上昇し、企業の資金調達コストが上がっていることです。数年前まで金利水準はほぼゼロで借入負担はごくわずかでしたが、世界で利上げが広がり借入コストがかさんでいます。

 これら4つのチャレンジは、複雑に絡み合っています。

――どう絡み合っていますか。

 サステナビリティへの対処は、中長期的なスパンで行動する必要があり、少しずつ前進してきました。多くの企業が、カーボン(二酸化炭素)ニュートラルに向けてコミットメント(公約)を公表してきました。そのピークは、コロナ禍が拡大に向かう2020年のダボス会議の開催頃だったと思います。それが今、他の3つの要因によって大きな試練を迎えています。

 サステナビリティへの対応とは端的に言えば、化石燃料の代わりに再生可能エネルギーを使用したり、二酸化炭素排出を抑制しながら食料を増産したりなど、社会システムの転換を図ることです。

 しかし、前述した世界政治秩序の動揺で、エネルギー確保が安全保障に関わる重要課題になりました。また、インドなど新興国の工業化はどんどんと進んでいます。急成長する生成AIにおいては、それを動かす半導体が従来以上の電力を要するものになっています。

 つまり世界は、持続可能なエネルギーにシフトしなくてはいけない一方で、増加するエネルギー需要にも応えなければいけない。この課題の解決には、さらなる設備投資の増強が必要ですが、そのための資本の調達コストは上がっているのです。

 これらの状況変化は、すでに企業経営に大きな影響を及ぼしつつあります。経営者は、迅速かつ的確に対応する必要があり、企業戦略を立て直さなければいけません。現実的なアプローチが不可欠です。