インドネシアで10月発足のプラボウォ新政権、「先進国入り」とルピア安の期待と懸念Photo:PIXTA

今年2月のインドネシアの大統領選挙で当選したプラボウォ新政権が10月に発足する。経済の好調は続いており、目標とする「先進国入り」へ向けて順調に歩みを進めそうだが、次期政権での民主化後退懸念が現実のものとなれば、それは経済発展への足かせとなるだろう。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

大統領選挙で圧勝したプラボウォ氏
議会でも安定勢力を確保

 インドネシアでは、2月に実施された大統領選で、事前の世論調査で一貫してトップを維持してきたプラボウォ国防相が勝利を収めた。

 なお、選挙管理委員会はプラボウォ氏の勝利を発表するも、選挙戦を戦ったアニス陣営とガンジャル陣営は、選挙への国家の干渉、副大統領に就任するギブラン氏の立候補を認めるべきではなかったことを理由に、憲法裁判所に対して異議申し立てを行った。

 4月末に憲法裁は、選挙結果への組織的な不正行為やジョコ現大統領による干渉の証拠はなく、公的機関や公務員の動員、ジョコ政権が選挙直前に実施した食料給付などの社会支援策が選挙に利用された事実はないとの判断を下して異議申し立てを棄却し、プラボウォ氏の勝利が確定した。

 しかし、憲法裁の判断を巡っては5人の判事が申し立ての棄却を支持する一方、3人が反対意見を述べるとともに、ジョコ大統領と公的機関の中立性に疑義が生じると指摘するなど大統領選を巡って初めてとなる異例の判断が示された。

 この背景には、プラボウォ陣営の副大統領候補となったジョコ現大統領の長男のギブラン氏(36)を巡って、現行法では立候補要件が40歳以上と規定されているにもかかわらず、憲法裁が地方政府の首長への選出経験を理由に出馬要件の除外規定を認める決定を行い、その後に決定を後押しした憲法裁所長が倫理違反で更迭される事態に発展したことがある。

 こうした状況ではあるものの、大統領選ではプラボウォ氏の得票率が58.59%とアニス氏(24.95%)、ガンジャル氏(16.47%)を大きく上回った。国民からの人気が高いジョコ現大統領の路線を踏襲する方針をうたうことにより、圧勝を遂げた。

 よって、プラボウォ氏は当選確定を受けた認証式典において、すべてのインドネシア国民のために闘うと表明した上で、インドネシアが生き残り繁栄するためには、共通の利益のためすべてのエリート、すべての勢力の団結が不可欠と述べるなど協調を呼び掛けている。

 他方、大統領選と同時に実施された総選挙において、プラボウォ陣営を支援した政党連合(先進インドネシア連合〈KI〉))の4党(グリンドラ党、ゴルカル、国民信託党〈PAN〉、民主党)具体名を入れていただけますでしょうか)が獲得した議席数は280議席と総議席数(580議席)の半分以下にとどまり、次期政権による政策運営の障害となることが懸念された。

 しかし、その後の政党間の合従連衡によりアニス陣営を支援した2政党(国民民主党〈ナスデム党〉、国民覚醒党〈PKB〉具体名を入れていただけますでしょうか)がプラボウォ次期政権の与党連合に加わることで合意したため、計6政党による獲得議席数は417議席と総議席数の7割以上を占めることになり、議会運営を円滑に進めることが可能となるもようである。

 ただし、プラボウォ氏はジョコ路線の踏襲をうたうなかで新首都(ヌサンタラ)移転のほか、公約に低所得者層へのバラまき政策を盛り込んでおり、財政運営に対する不透明感がくすぶる。

 次ページ以降、インドネシア経済の現状を分析するとともに、同国の先進国入りに向けた動きに死角はないかを検証する。