中国の高齢者のほとんどが、家庭と地域社会で老後の生活を送っているという現状を再認識した中国政府は、高齢者介護サービスにおける力点を、在宅介護やコミュニティーによる高齢者支援に置くように、支援政策を傾け始めた。 

 2024年1月14日に開催された中国民政会議では、2023年から中国は基本的な高齢者サービスシステムの整備を加速し、全ての省が、関連の実施計画とプロジェクトリストを導入したことを明らかにした。在宅コミュニティー介護サービスの強化プロジェクトの組織づくりと実施、経済的困難状態にある障害高齢者の集中介護サービスに対する中央財政の支援の実施、特別困難高齢者家族への支援、基礎的高齢者介護サービスの統合プラットフォームの組織づくりと実施などが強調された。 

「一人っ子政策」がもたらした、老後に対する考え方の変化

 中国では、老後を暮らすことを「養老」という言葉で表現する。

 成人となった子どもの経済力などを頼りにして老後の生活に備えるのは、昔からの習わしだ。「養児防老」という四文字熟語も、こうした風土の中で生まれた慣習を表している。

 しかし、1980年頃導入された「一人っ子政策」によって、こうした慣習が存在し続ける社会的土壌は失われた。改革・開放時代は、中国国民の生活レベルを高めた一方で、子どもの教育費などの急増をもたらしたのだ。

 筆者と同時代の中国人の大半は、一人っ子の子どもの経済力で老夫婦の老後生活を支えてもらうという夢を見ていない。ただ、老人ホームには行けなくても、コミュニティーの支援は喜んで受けるという意識はかなり根付いている。中国政府もこのあたりの社会のニーズを理解していて、老人ホームをたくさん造れる経済力はなくても、高齢者の日常生活を支える社会インフラの整備には力を入れ始めたというわけだ。

 アジアで一番先に高齢化社会を迎えた日本は、中国にとっていい手本になっている。日本から多くの教訓と対応策を学んだ。 

 その一つは、日本のデイサービスだ。中国でも、約10年前から、デイサービスを提供する施設の新設を政策的にも資金的にも支援する現象が起きている。長江デルタ地域の地方都市では、売り残ったビルや子どもの減少により廃校となった小学校の校舎などを在宅養老・介護の拠点とするデイサービスセンターに改造。在宅高齢者の介護、食事補助、入浴・清潔、医療ケア、移動、緊急対応など「六つの助け」と呼ばれるサービス、訪問介護、相互支援システムの形成を模索し始めた。ちなみに、訪問介護は中国では「居家照護」と訳されている。 

 上海市、江蘇省、浙江省などの経済発達地域では、この動きは特に活発だ。在宅養老・介護市場の将来性を見た民間企業は、ビジネスチャンスと捉え、デイサービス施設の設立に積極的に資本と人材を注ぎ込んだ。 

 もちろん、飛び越えなければならないハードルもまだある。