ついに休職を決意した寅子だが、女の地獄の後には男の地獄が待っている。家父長制による性的役割分担の元では、女は家を守り、男は外で闘う宿命だ。若い男たちには次々と赤紙が届き、愛する妻子の元を去っていく。そして終戦を迎えても庶民の苦難は続き、裕福だった寅子の家庭も見る影もない。

つらいのに先を見たくなる……
寅子は戦後をどう生きるのか

 こんなつらい展開なのに、なぜ続きを見たくなるのか。

 すでにいろいろと分析されているが、個人的には当時の「男社会」で働いていた女性の視点で捉える戦争の時代に感じ入るところがある。

  現代的な感覚を歴史ドラマに持ち込み過ぎているという指摘もあるが、女性がぶつかる壁に「はて?」と首を傾げる寅子のように疑問を持つ女性は、当時もいたはずだ。しかしそんな寅子でも、戦争が迫ってからは「はて?」を言わなくなる。

 法曹を目指す女性がいて、当時狭いながらもその門戸は開かれつつあった。しかし戦争に突入するのと同時期に法学部の「女子部」は閉鎖され、あんなに女子部存続を願っていた寅子も諦めるしかなくなった。それどころじゃない、という空気が漂う。粛々とバケツリレーの練習をし、戦地へ向かう夫に手縫いのお守りを渡すしかない。

 戦争という非常事態の元で「女性の権利向上」はしまい込まれる。社会的弱者だけでなく、国民全体の人権が顧みられることのなかった時代なのだから、当然ではある。

 これから物語は戦後に移るが、この戦後を寅子がどう生き、荒地の中からまたどのように個人の尊厳のために闘おうとするのかが気になる。個人が現代をどう生きるかというヒントを、寅子の姿勢から読み取ろうと思う人も少なくないのではないか。