令和4年の国民生活基礎調査によると、入院するまでもない自覚症状の有病率の第1位は男女共に腰痛だった。慢性腰痛の有病率は約8%で、長年「原因不明の腰痛(非特異的腰痛)」に悩む人も多いだろう。
山口県の整形外科クリニックの医師らが行った「山口県腰痛スタディ」では、慢性的な腰痛を訴える患者の79%が、初診時に非特異的腰痛と診断されている。
ところが、その後の丁寧な診察と、治療を先行して経過を観察しながら原因を特定する「診断的治療」により、非特異的腰痛の8割で原因が判明。最終的に、およそ8割の患者が適切な診断と治療を受けることができたという。
腰痛との関連では、米国から興味深い調査結果が報告されている。患者自身が「自分の痛みやつらさに共感してくれた」と感じる主治医の下では、痛みが緩和し、健康関連の生活の質(QOL)が改善したというのだ。
解析対象は、2016年4月1日~23年7月25日に登録された21~79歳(平均年齢53.1歳、女性74.4%)で、3カ月以上慢性的な腰痛に悩む1470人。
医師の共感性については、主治医は(1)あなたを安心させてくれた、(2)十分に話をさせてくれた、(3)注意深く話を聞いてくれた、など10項目の共感性評価スコアを使い、各項目を1点(よくない)~5点(最高)の合計で評価。30点以上を「共感性が高い医師」、29点以下を「低い医師」として、自覚症状への影響を調べている。
その結果は前述の通り。共感性が高い主治医であれば、痛みの緩和に加えて、寝返りが打てない、服を着るのに手伝いが要る、などの腰痛関連の機能障害が有意に改善し、QOLも良くなった。
しかも、医師の共感性が及ぼす治療効果は、理学療法などの非薬物療法や痛み止めの医療用麻薬(オピオイド)、および腰椎手術のそれを上回っていたのである。
研究者は「医師の共感性を育てる教育が必要」としているが、もとより人間関係は一方通行ではない。長年の腰痛を緩和するには、患者にも医師との信頼関係を築く心構えが必要なのかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)