「喫茶店でお客様と商談していたとき、小さな違和感を抱いたんです」
そう語るのは、アメリカン・エキスプレスの元トップ営業である福島靖さん。もともとコミュ障で、学生時代は友達ゼロ、おまけに高卒。そんな福島さんは31歳でアメックスに法人営業として入社するも、当初は成績最下位だった。しかし営業になる前、6年勤めたリッツ・カールトンで磨いた「お客様の記憶に残る技術」を営業でも実践したことで成績は急上昇。わずか1年で紹介数・顧客満足度全国1位、表彰もされるトップ営業となった。
その経験とノウハウをまとめたのが、初の著書記憶に残る人になる−トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルールだ。「ガツガツしなくても結果を出せる人」になる方法が満載で、営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、お客様と喫茶店などで商談する際に実践している「気遣い」を紹介する。(構成/石井一穂)

【記憶に残る営業術】トップ営業が明かす、「カフェや喫茶店での商談」で実践している“小さな気遣い”とは?Photo: Adobe Stock

ある日の喫茶店での商談、ふと気になったお客様の行動

 お客様と同じ立場になると、見える世界も変わります。
 すると、そこから新しい情報を得られることもあります。
 お客様と同じ体験をしたことで気づけた、ある気遣いがありました。

 それは街中の喫茶店で商談をした際のこと。
 通常はその場でお客様に書類をお渡しして、生年月日や電話番号、住所、年収などを含む情報も記入いただきます。
 営業からすれば違和感のない光景ですが、お客様目線では違ったようです。

 あるときの喫茶店での商談で、男性のお客様が書類を記入する際に、ふと両隣に目線を移すそぶりをしたのです。

お客様が周囲を気にした理由とは?

 無事に契約は終了しましたが、そのそぶりの理由が気になった私は、翌日の出社前に駅前のカフェに行き、お客様が書く契約書に自分で記入してみました。
 当事者になれば、お客様の行動の理由がわかると考えたのです。
 名前、生年月日と書いていきましたが、ある項目でペンの進みが鈍くなりました。

 それは「年収」の欄でした。

 駅前のチェーン店でしたから、店内は満席。
 両隣に人がいると視線が気になってしまうんです。
「当事者」になって初めて、この違和感に気づけました。

お客様の「気まずさ」を解消する“小さな気遣い”

 この違和感を解消できないか考えた私は、あるものを思いつきました。
 個人情報を書いたハガキなどに貼って、書いた内容を見えなくする「目隠しシール」です。
 これを申込書の記入欄の大きさにカットして、年収以外にも住所など、個人情報を記入いただいた箇所から順に貼っていくことにしたんです。

 その日の商談でさっそく実践したところ、お客様にとても喜んでいただけました。

お客様「このシールは会社から支給されるんですか?」 
私「いえ。必要だと思ったので自分で用意しています」
お客様「さすがアメックス!」

 なんと会社のことまで褒めてもらえました。
 驚いたことに、同じシールを購入して「うちでも使ってみるよ!」と、実践されたお客様もいたほどです。

 気遣いが苦手な人こそ、お客様と同じ体験をしてみましょう。
「もっと、こうだったらいいのに」という点に気づけるはずです。
 そこで「お客様のためには何ができるだろう?」と考えてみると、今までには想像もしなかったあなたなりの「気遣い」が見つかります。
 その気遣いがあなたの印象を残し、その他大勢の営業とは違う存在として記憶してもらえるのです。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表。経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、「俳優になる」ことを口実に18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。同社が大切にするホスピタリティを体現し、6年間で約6,000人のお客様に名前を尋ねられるほどの「記憶に残る接客術」を身につける。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、リッツ・カールトン時代に大切にしていた「記憶に残る」という在り方を実践したことで、1年で紹介数、顧客満足度、ともに全国1位に。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSky(プライベート・ジェット機の販売・運航業)に入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。本書が初の著書となる。