ただし、それは日本が技術の最前線でリーダーとして新たな役割を見いだす必要があることを意味する。1990年代から2000年代初めにかけては、リーダーとして先行し続けられる経済にいかに転換するかという問題にまさに頭を悩ますこととなった。「失われた30年」とされるこの期間は日本の思春期――どのような大人になるか未知数の10代として捉えられる。

日本は先陣を切って
高度なハイテク領域に移行すべき

 1990年代に多くの日本企業が犯した過ちのひとつは、自社が到達した新しい現実を受け入れるのに時間がかかりすぎたことだ。アメリカのビジネススクールで行われた研究によると、企業は困難に直面すると、とかく古い成功パターンに戻ってしまうという。そのパターンがもはや機能せず、問題の元凶になっていても、である。より技術的に高度な新製品の開発にすばやくピボットすれば、救われたかもしれない日本企業は数知れない。名前をいくつか挙げると、三洋電機、パイオニア、オンキヨー、サンスイ、アイワ、シャープなどだ。多くの企業がこの過ちの代償を払い、買収されるか、姿を消していった。

書影『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』(日経BP 日本経済新聞出版)
ウリケ・シェーデ 著、渡部典子 訳

 同時に、東アジアが製造業の組立工程の主要な担い手として台頭し、サプライチェーンがグローバル化したこともまた、日本が技術リーダーの立場を活かして、東アジアにとって重要サプライヤーでかつ欠かせない存在になる大きなチャンスだ。言い換えると、競合他社がまだつくれない、より高度なハイテク領域に移行すればよい、ということだ。超高度な素材や部品、製造機械が最終製品に不可欠であるかぎり、日本は東アジアに経済的に相互依存型のネットワークを築くことができる。

 2024年時点で進行中の「デカップリング」は、この新しく浮上している戦略に悪影響を及ぼすかもしれない。中国からの需要が途絶えることは、日本企業にとって大きな危機になりうる。しかし、韓国、台湾、中国の間の緊密なサプライチェーンの依存関係は安定しつつある。どの地域も、この新しい分業体制から大きな恩恵を受けてきた。グローバル・バリューチェーンは今後も重要であり続ける可能性が高い。