同様に、物流(ブロックチェーン)、金融(フィンテック)、建設(自律型建設機械や遠隔操作)まで、DXは非製造業全体にも機会をもたらしている。戦略の観点から、よく知られる日本の明確な強みは多数あり、日本にとって新たな拡張やリーダーシップの機会となる。図表にその一部を挙げてみた。

DX時代の新しいビジネスチャンスの例DX時代の新しいビジネスチャンスの例 同書より 拡大画像表示

 DXの動向をうまく活かせば、企業を再編する、あるいは、新技術やイノベーションにターゲットを絞って勝負に出ることへの切迫感を醸成する好機となる。こうした切迫感は、社内の抵抗を乗り越えて、新しい戦略ビジョンやコーポレート・アイデンティティをつくり出す一助となる。

製造業における国の立ち位置は
刻一刻と変化している

 日本は欧米に追いつくことに成功し、いまや世界の技術リーダーだ。しかしこれは、日本がコスト・リーダーシップを失ったということでもある。アジア地域で韓国、台湾、中国が直接の競争相手として台頭し、日本が昭和時代に謳歌してきた高品質な消費者向け最終製品の大量生産における優位性を切り崩した。その後、半導体の製造技術を次々と獲得し、今では韓国が自動車分野で手ごわい競合になっている。

 韓国は世界の経済複雑性ランキングで1995年の21位から2020年には4位に、中国は46位から17位に浮上した。こうした国々の企業が生産工程を向上させていくのに伴い、最初は単純な製造業だったが、次第に高度な製造業でも日本に取って代わっていった。

 韓国勢などの追い上げを話題にすると、往々にして日本が「負けた」ことを嘆く声が聞かれるが、実のところ、こうした産業の進化はよくあることだ。既存企業に追いつき置き換わることは、1970年代から1980年代にかけて、日本企業が欧米企業に対して行ってきたことだ。

 たとえば、オランダのフィリップスは、かつて標準的な家電製品を製造していた。ところが、アジアとの競争(最初はパナソニックなど、その後はサムスンなど)にさらされ、フィリップスはより高度な電子機器や医療機器などに移行した。世界の自動車会社も同じくアップグレードの方向へと移る傾向がある。ドイツのフォルクスワーゲンは、当初はトヨタ、日産、ホンダの日本勢との、そして今はヒュンダイなどとの新たなグローバル競争が始まるまで、安価なベーシッククラスの自動車を製造していた。

 このように、コモディティ化した市場からはじき出されることは単に日本が先進経済国に仲間入りした結果にすぎない。