永野健・三菱金属社長
「週刊ダイヤモンド」の経営者インタビュー連載「ダイヤモンド・ロビー」は、1977~93年まで続いた長寿企画だ。事業内容や経営方針に切り込む回もあるが、どちらかというと経営者の人となりに迫る内容のものが多い。

 83年12月17日号の同コーナーに、永野健(1923年3月17日~2008年5月12日)が登場している。永野は82年に三菱金属の社長となり、90年には三菱金属と三菱鉱業セメントが合併して誕生した三菱マテリアルの初代会長となった。父は運輸大臣を務めた永野護で、護を長兄とする永野重雄(新日本製鐵会長など)ら“永野6兄弟”を叔父に持つ。永野家は広島県の浄土真宗本願寺派の名刹、弘願寺がルーツでもある。

 インタビューの話題は、コンピューターに人間の知能が代替され、ロボットの能力が進化した世の中とは、というもの。永野は、機械に仕事を奪われ失業者が増えるのではなく、「働かなくてよい人が増える」と予想し、そうなったときの世の中の様子に思いを巡らせる。40年前の経営者が、どんな未来を想像していたかを知るという点で、大変興味深い。

「ゲームが増えるというか、要するに趣味なんてものは当然普及してこなきゃいかんでしょうな」と、余暇に費やす時間が増えることを指摘しながら、宗教のような精神的なものを求めていく余裕も増えると話す。また「なんか知らないけど、皇居の周りをバタバタ走る人がやたら増えるような、これじゃしょうがないね」と、昨今のマラソンブームと皇居ランナーの増加を図らずも言い当てているのも面白い。(週刊ダイヤモンド/ダイヤモンド・オンライン元編集長 深澤 献)

これから世の中どうなるか
これが一番分からない

「週刊ダイヤモンド」1983年12月17日号1983年12月17日号より

――永野さんには楽観的というか楽天的というか陽気なムードがある。

永野 そうでしょう。楽天的なんです。それがちゃんと当たるんだから。みんな心配するけど、心配いらないというと心配いらないようになるんだからありがたいもんだね(笑)。

 本当に、楽天的というんじゃないけど、ものの見方というのは数字だけでいかないものがありますよね。マーケットとか、値段とか……。人の気持ちの動きがそういったものに結び付くわけだから。だからいろんな見方があっていいと思うんですよ。

 どっちが正しいとか正しくないという問題じゃなしに、ぼくは大変なときには、楽天的に見ながらいままで来たわけです。

――悪い方をあまり見ないんですね。

永野 と同時に、心配したら心配しただけの価値があるというか、物事が改善されるとか、そういうときは一生懸命心配しなきゃいかんでしょう。だけど、世の中のことを見てみると、心配しても心配しなくても同じことを心配していることが多いでしょう。そういうときは一切心配しないことにしている(笑)。

――うれしくなってくるなあ(笑)。

永野 ただ、本当に心配しなきゃいけないことをほっとくのは、これは一番アホでしょうけどね。だけど、あんまりそういうことないんじゃないの。

 これから世の中どうなるかなんて、心配というものじゃないけど、ぼくはこれが一番分からない。どうなるかみんな考えながらいかなきゃならないことだと思う。

 世の中のコンピューターが非常に進んでくる。すごい勢いです。パソコンだけじゃない。それと組み合わせるINS(Information Network System)もそうでしょう。コミュニケーションシステムというものが非常に進んでくる。

 それからロボットだ。ほとんど人が働かなくても自動車はポコポコできる。自動車だけじゃない。あらゆるものがそれに近くなってくる。本当に働く人の数が減ってくる。少なくともインダストリーについては、そういう時代になってくるわけですよ。

 だから国としては、あるいは会社としては自分の利益が出るけど、国としてもGNP(国民総生産)は十分に出てくるけれども、職場はなくなってくる。