五島昇と加藤寛
 今回紹介するのは、「週刊ダイヤモンド」1984年3月31日号に掲載された東京急行電鉄社長の五島昇(1916年8月21日~1989年3月20日)と、慶應義塾大学教授で経済学者の加藤寛(1926年4月3日~2013年1月30日)の対談である。

 五島は、東急グループの実質的な創業者である五島慶太の長男で、1954年に社長に就任。戦後復興から高度成長期にかけて、祖業である鉄道を核とした都市開発から小売業、旅行、ホテル、映画といったレジャー分野などへと事業の幅を広げていった。

 一方、加藤は行政改革の旗手として鈴木善幸、中曽根康弘政権下などで経済政策の実践に力を注いだ人物だ。慶大では湘南藤沢キャンパス(SFC) 設立に携わり、総合政策学部の初代学部長も務めた。その後、千葉商科大学の学長なども歴任した。

 対談当時、五島は67歳、加藤は57歳。その2人が17年後に迎える21世紀の世界について語っている。面白いのはコンピュータに対する展望だ。

 加藤は「コンピュータ時代になると今までの縦系列が横になる」と語る。「メーカー、問屋、卸売り、小売店、これが縦系列です。これを横につながないとダメだ」というのである。それを受けて五島は、「縦型の系列は結局、専門知識だと思います。専門知識はコンピュータに任せればいいんです。今の学校教育も、記憶させる教育ですよね。記憶はこれからコンピュータに任せればいいんで、どうも今の教育システムは、大変な間違いをしているのじゃないかという気がします」。

 さらに五島は、「そのうちに記憶なんていうのは、自分のポケットに小さなコンピュータを入れておけばいいようになってくる」と続ける。ポケットのスマートフォンでなんでも済ませるような今の時代を、なかなか的確に言い当てている。(敬称略)(週刊ダイヤモンド/ダイヤモンド・オンライン元編集長 深澤 献)

百貨店は「売り場」でなくて
「買い場」となるべき

「週刊ダイヤモンド」1984年3月31日号1984年3月31日号より

加藤 東急グループは270社ぐらいありますね。

五島 この3月末で288社です。

加藤 この間、米国へ行って気が付いたのですが、10年ぐらい前までは大抵バイスプレジデントという方が出てこられた。それがこの頃はバイスが取れて、プレジデントという方が増えた。どうしてかなと思ったら、バイスプレジデントの数が減ったのだそうです。あまりにも大きな単位でやっていると、経済の活力がダメになるんだと。

 ところが、東急でもそれを前からやっていらっしゃるんですね。