セミナーで講演する地域の魅力研究所の多胡秀人代表理事セミナーで講演する地域の魅力研究所の多胡秀人代表理事

地域金融に詳しい、地域の魅力研究所の多胡秀人代表理事が6月17日午後、闘病の末、死去した。72歳だった。多胡氏は、政府が2003年に掲げた地域密着型金融「リレーションシップバンキング」の策定に関わり、書籍やブログ、交流サイト(SNS)でも活発に情報を発信。地域のための地域金融機関のあり方について舌鋒鋭い論陣を張り続けた。(共同通信編集委員 橋本卓典)

地域金融の第一人者が死去

 多胡秀人代表理事は鹿児島銀行、山陰合同銀行、東和銀行、商工中金の社外取締役、浜松信用金庫(現浜松いわた信用金庫)の非常勤理事などのほか、金融庁の「金融仲介の改善に向けた検討会議」「金融モニタリング有識者会議」メンバー、「金融機能強化審査会」(公的資金注入)会長代理などを歴任。金融機関や政府での要職経験が豊富で、名実共に地域金融を知る第一人者だった。

 地域金融の巨星であった多胡氏を追悼するとともに、同氏が情熱を注いだ地域金融のあるべき姿とその方向性を展望する。

国際派バンカー

 多胡氏は島根県安来市出身。日本銀行勤めの父、久市氏の転勤で各地を転々とした。新潟支店時代は、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの両親、滋・早紀江夫妻も暮らした社宅で育ったという。

 一橋大学を卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。英ロンドン駐在時代は証券業務やデリバティブ(金融派生商品)を担当するなど、地域金融の第一人者は意外にも国際派のバンカーだったのだ。

 生前の多胡氏は「鉄道が好きで、ヨーロッパ各地を回りましたが、どの国にも“ローカル”がありました。そして、どの街にも独自の“味”がある。日本のように、どの駅前もチェーンホテルとコンビニが立ち並ぶ殺風景な感じとは違うのです」と語っていた。国際派の多胡氏はロンドン駐在当時から、地域への問題意識を抱いていた。