2022年11月18日に『ME TIME 自分を後回しにしない「私時間」のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版した株式会社朝6時代表の池田千恵氏。本のタイトルともなっている「ME TIME」は、リラックスして過ごす自分だけの一人の時間を表す口語として、単なる自分の時間を指す「MY TIME」とは区別して使われるようになってきている。2009年に『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』がベストセラーとなって以降、「朝」や「ひとり時間」、プロデュースしている『朝活手帳』を使って自分の人生を戦略的に舵取りする方法を広く発信している。
その池田氏と対談するのは、コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタントの下地寛也氏。日本一ノートを売る会社で30年以上働き続けながら、10冊のビジネス書を出版。即重版をして話題になった新刊『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)の著者としても知られている。
過去の成功事例に頼ることのできない今、自分らしい道を切り拓いて活躍しているお二人に、自分の考えを深めるメモの書き方や、忙しい日常でどうやって自分の時間「ME TIME」を作っているのか、また「正解のない時代」のキャリアの作り方についてじっくり語ってもらった。
※当対談は、2022年12月13日朝7:30~8:30に六本木文喫にて行われたイベント「文喫 ✕ アサロク vol.5 新刊『ME TIME』発売記念 日本一ノートを売る会社コクヨの人はME TIMEでどんなメモを書いているのか?」の内容をもとに構成しています。(写真・構成 仲間麻美)

「10分でアウトプットする人」と「永遠にアウトプットできない人」。その決定的な違いとは?左:池田千恵氏 右:下地寛也氏

「時間の片付け法」を使って本当に大切なものに集中する

池田千恵(以下、池田):下地さんと私のつながりからご紹介したいと思います。私は2009年に初の著書『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』を出したのですが、準備のために通っていた出版セミナーの受講生仲間が下地さんです。ただ、私は第3期生で、下地さんは第14期生なので期が違っていて、お会いするのは今日が初めてなんですよね。

下地寛也(以下、下地):そうなんです。でも、池田さんのお話はいつも出版セミナーの先生から聞いていたので、初対面という感じがしません。先生は「『朝4時起き』というブランドを作った池田さんはすごい。君たちもそれくらいのことをしないと」と常々おっしゃっていて、僕も池田さんに憧れていたのでお会いできて光栄です。

池田:ありがとうございます。同じ目的を持つコミュニティにいると、リアルでお会いしていなくても距離感が縮まり、お互いに「仲間」という認識が持てますよね。私も下地さんが書かれている本の内容を見て、新刊『ME TIME』と共通点がたくさんある!と気づき、ぜひお話したいとお声掛けしました。

 下地さんの『考える人のメモの技術』についてお伺いする前に、私の『ME TIME』について少しお話させていただきたいと思います。この本は、時短すべきもの、そうでないものを見極め、本当に大切なものに時間を集中投下できるようになる方法を書きました。本の中で提唱しているのが、時間の片付け法の「SEEメソッド」です。

  「SEEメソッド」は、限られた時間を視覚的に見つめ、時間を選び取り、望む人生を生きる方法です。時間を「見える化」(Show)し、編集(Edit)し、楽しむ(Enjoy)ことで誰でもME TIMEが作れるようになります。ファーストステップの時間の「見える化」(Show)で、これから下地さんにお聞きするノートの取り方やメモ術が役に立つと思います。

 また、2つ目のステップの時間の編集(Edit)ですが、「Want」(やりたい・ほしい)と「Have to」(やらなきゃ)で仕分けしていきます。例えば、「掃除をする」という行為に対して、「掃除のプロセスや成果も楽しくてたまらないから」するのか「本当は嫌だけれどしなければならないから」するのか、厳密に自分の心に問う作業がここになります。今の自分の状況は、「Want」なのか「Have to」なのかが分かっていることが重要です。

 今回、下地さんとお話したいと思った理由が、下地さんが著書で書かれているメモやノート術、働き方とキャリア形成の方法が、この「SEEメソッド」と共通していて、一緒に読んでいただくと相乗効果があると感じたことにあります。

 下地さんの新刊『考える人のメモの技術』でも、「考える」とは、“ある「状況」に対して、自分の過去の知識や経験、価値観などが蓄積された「考え方」を使って、手に入れた情報を組み合わせたり、並べ替えたりしながら再構成する、つまり「編集」することによって、自分なりの「答え」にたどり着くという行為”と書かれています。

「10分でアウトプットする人」と「永遠にアウトプットできない人」。その決定的な違いとは?

 この図で言うと、状況と考え方を組み合わせるステップがShow、編集がEdit、自分の答えがEnjoyとSEEメソッドにも当てはまるので、両方を吸収することでよりよいME TIMEが作れるのではないかなと思います。

下地:ありがとうございます。僕も『ME TIME』を拝読して、特に時間の編集(Edit)の「Want」と「Have to」で仕分けするという箇所は大切だと感じました。後でじっくりお話したいと思います。

気づく力を鍛えて、インプットとアウトプットを繋げよう

池田:現代は「正解のない時代」と言われていますが、調べれば調べるほど当たり前の答えになってしまったり、みんなが言っている答えになってしまうことも予想されます。また、自分の考えなのか、他の誰か声が大きい人の声なのかが、混乱してしまう人も多いと思うんですよね。そんな中で「メモをどう使うか」は重要なヒントになると感じたのですが、『考える人のメモの技術』を書くに至った経緯を教えていただけますか?

下地:2016年に社員100人のノートの写真を撮影し、『コクヨのシンプルノート術 』という本を書きました。「ノートの右上にタイトルと日付を書く」、「大事なことは〇で囲む」など具体的なティップス(ちょっとしたコツやテクニック)を入れたものです。するとかなりの反響があり、ノート術の需要に気がつきました。そこで他のノート術の本も読んでみたのですが、僕が紹介したようなティップスやノウハウ系は豊富でも、体系的に書かれているものはあまりないんですね。さらに同じノート術の本でも、書いてあることがバラバラだという印象。研究していくうちに、ノート術は大きく2種類に分けられることがわかったんです。

池田:2種類ですか?

下地:はい。インプットメモとアウトプットメモの2種類です。『情報は一冊のノートにまとめなさい』とか『メモの魔力』等は、インプットした情報をどういう風に使うかというもの。そして、『ゼロ秒思考』『頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』等は、アウトプット型のメモ術だったんです。それで分けるとスッキリしたんですよね。

 そして気づいたのが、インプットのメモは自分に引っかかった情報を記録したり、ヒントをストックするものなので、ノートは小さいほうがいいし、後で読むからある程度丁寧に書く必要がある。アウトプットはテーマに対して前提条件や得た情報を書き出すのでノートは大きい方がいいけれど、殴り書きでよい。あとでパワーポイントにまとめたりもしますので。だから、自分が今これから使うノートは、目的が「インプットなのかアウトプットなのか」を整理するだけでも書くときにスッキリするんです。

 でも、「インプットをどうやったらアウトプットに役立てられるのか」という橋渡しが難しいんですよね。普段インプットしたことを使わない方が多くて、それをどうしたらいいかを考えたんですが、こういう結論になりました。

「10分でアウトプットする人」と「永遠にアウトプットできない人」。その決定的な違いとは?

下地:アウトプットで現状を書き出す時はまさに、池田さんが『ME TIME』で書かれていた「見える化」。すべてを書き出して課題を見つけていくんですが、インプットで得た気づきとアウトプットで見えてきた課題を結びつける作業が大事なんですね。そこで欠かせないのが、「インプットした時に自分の考え、つまり気づきをメモに加える」という作業です。自分の考えがないとインプットとアウトプットが繋がらないんです。

池田:わかります。

下地:ところが、大半の人はメモを取った時に自分の考えを加えていない。単なる雑談に使えるレベルのメモで終わってしまうんです。でも、自分の考えを載せると「あ、それってこういうことだったんだ」とあとで使える知識になるので、アイディアの引き出しに貯金が増えていく。だから、例えばセミナーに参加した時、メモに「自分はここが面白かった」を書いてみればいいんですよ。「得た情報」と「そこから自分が感じた気づき」のセットができて使える知識の下ごしらえが完了します。そういった使える気づきのセットがたくさんあると、自分に問題が起きたときにそれを書き出していけばどんどんつながっていきます。

池田:確かに、気づきの引き出しが多ければ多いほど、話の幅も広がるし、自分がどう考えたかアウトプットするにも役立ちますよね。私が主宰するオンラインサロン「朝キャリ」では、勉強好きな方が多いです。インプットは積極的なんですが、発表が苦手のようです。頭の中にたくさんの知識があっても、アウトプットにとても時間がかかる。多分この、気づきというところを意識していないからかもしれませんね。気づきを明確にすることで、アウトプットのスピードが早くなりそうな気がします。気づきはどうやって鍛えられますか?

下地:僕がやっているのは、著者仲間の山田智恵さんが提唱している「ミーニング・ノート」です。毎日3つ自分にとって意味があると感じたことを書くというものなのですが、気づきの筋肉を鍛えるトレーニングになっていると感じます。外から入った情報に、自分で意味付けをしていくというのは、考える力の確認。筋トレなんですね。

 毎日書くとなると「全部使わなければならない」と思いがちですが、とったメモ全体の中で使えるアイディアになるのは、せいぜい5%くらい。全体を着実に積み上げて、必要な5%をサッと取り出すために筋トレとしてやっています。

池田:毎日の積み重ねが重要という点は筋トレと同じですね。最初は時間がかかっても、続けていくうちにアウトプットのスピードが上がりそうですね。それが時間の節約になり、自分の時間を作るということにつながっていくのかなと思いました。

下地:そうなんですよ。会議で発言できる人って、事実や数字に対して反射的に自分の考えを載せられるんですよね。企画も、ひとりで悶々と毎回ゼロから考えるよりも、日ごろから気づきのストックがあってパッと出せる人は強い。1日3つメモすれば、一年間で1000個くらいネタができる。その5%が使えれば、日常の仕事はラクに回りますよね。考える時間は劇的に短縮されるはずです。また、これが日常化されていれば、会社で会議をする時でも、10分で企画のアイデア出しや方向づけは終わるようになると思います。

池田:10分で企画の方向性がまとめられるようになれば、それは本当にすごいことですよね。そこに至るまでには、どれくらいのトレーニングが必要だと思いますか?