神経修飾物質以外にも、人の身体には実に何百種類ものホルモンやシグナル伝達物質が存在し、現在知られているものについては詳細に説明した本や文献がいくらでもある。生物化学の沼にはまるのは楽しいものだ。最新のミステリ小説より夢中になれるかもしれない。

 ただし、この文章は科学的に、あるいは学問的に深く追究したい人のためのものではない。専門的な内容を簡略化したポピュラーサイエンスの文章だ。脳内物質が与える精神的な影響、そして自分でも逆に働きかけられること、そういった点を説明していく。

 何事も複雑になり過ぎるとそれがあだになり、知識が広くいきわたらなくなる。とにかくとっつきにくい分野だが、何万人という受講者への効果を目の当たりにした今、とっつきにくい印象を変えたいという夢を持っている。そろそろこの知識が多くの人々の元に届いていい頃なのだ。だからシンプルでわかりやすい文章を書きたいと思った。人生で一番大切な事、つまり感情についての文章を。

 脳内物質自体は何百種類と存在するのに、なぜ6種類に限定したのか。それは私に譲れない条件があったからだ。効果をすぐに感じられること、望んだ時に自分でつくれること、それも簡単で実際的な方法によってつくれることの3点だ。

 その他の脳内物質を採用しなかったのは、私が設定した条件下では望んだ時にはっきりした精神的効果を得られないからだ。例えばエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンは必要不可欠ではあるが、条件内の方法ではすぐに感じられる効果は得られない。

 ここで取り上げた6つの脳内物質についても、実行に移しやすいよう、最たる精神的影響だけを選んでいる。何かの活動をするとほぼ必ず複数の脳内物質が同時に放出されるが、同じ量ではないし、効果のほども違う。