やる気が「長続きする人」と「短時間で終わる人」の差を生む生活習慣とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

私たちのモチベーションや欲求を生む脳内物質のドーパミン。人類が進化する過程でも重要な役割を果たしてきた物質だが、活用法を間違えると、ストレスや依存、うつにつながるリスクがあるという。コミュニケーションの専門家として活躍するデヴィッド・JP・フィリップス氏が、ドーパミンの正しい使い方を伝授する。※本稿は、デヴィッド・JP・フィリップス(著者)、久山葉子(翻訳者)『最適脳 6つの脳内物質で人生を変える』(新潮新書、新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

集中力と原動力が上がる
ドーパミンの実力とは

 先の記事では6つの脳内物質をベースに作られる〈天使のカクテル〉のつくり方やメリットについて紹介した。本稿では、6つのうち生きる原動力を得て人生を満喫するために必要な脳内物質・ドーパミンについて著者が解説する。

 朝目覚めたとたんに、こんな気分になる。「今日も朝からやる気満々。楽しい1日になりそうだ。もう待ちきれない!」バスルームに飛び込んでシャワーを浴び、服を引っかけスタートダッシュ。これが自然にドーパミンがほとばしっている状態だ。素晴らしい気分。春の喜びに野を駆け回る馬のようだ。

 注文してこんな気分になれたらいいと思わないだろうか。自分のドーパミンを手なずけ、さらに強く、長時間感じられるようになったら?今からその方法を学んでいこう。

 本稿を読み終わる頃にはドーパミンの特別な力を活用できるようになり、人生が昨日までと同じではなくなる。ただしドーパミンは正しい方向に使わなければならない。間違った方向に使うと虚しさや苛立ち、ストレス、依存やうつを引き起こすことがあるからだ。しかし知識と意志の力でそれを回避することもできる。

 ではまずは進化の見地から、ドーパミンの1つ目の役割を見てみよう。

 それは平凡な火曜日――ただし2万5000年前――のことだった。マンモスの骨と木の枝と粘土でできた質素な小屋の中で、藁のベッドに寝そべる祖先(オーケと呼ぶことにしよう)が無慈悲な太陽のまぶしさに目を覚ました。腹が減ったせいではなかったのが不思議なくらいだ。というのも、ちょうど大きな音でお腹が鳴ったところだった。

 家に食べ物はないが、ここからそう遠くない湿地にクラウドベリーが金色に熟れている。甘いベリーのことを考えただけでドーパミンが放出され、集中力と原動力が生まれた。

 湿地への道は歩きづらく、とげのある植物も生えているが、ずっとクラウドベリーのことを考えているせいでドーパミンのレベルが維持され、オーケは先へ先へと進んでいく。やっと丘にたどり着き、うら寂しい湿地を見下ろすが、なんとベリーは1粒残らずきれいに摘み取られた後だった。

 ドーパミンがクラッシュし(あくまで比喩だが、弾け飛んでしまうイメージだ)、期待を裏切られた苦痛が全身を貫く。オーケは倒れた木に腰かけ、ため息をつく。心が空っぽだ。どうやって生きていけばいいんだ――食べないと死んでしまうのに!

 その瞬間、リンゴの木が実をつけているのが目に入った。オーケの心に希望の光が灯り、ドーパミンがまた溢れ出す。あのリンゴだけはおれのものだ!木に登り、あたりにあった枝や石も使って、オーケはやっとリンゴを手に入れることができた。またさっきの倒木に座り、よく熟れたリンゴにかぶりつく。ついにごほうびのカクテルをもらえたのだ。