日本では2012年に、医師や心理学の研究者が中心になり日本ポジティブサイコロジー医学会を立ち上げ、毎年、医学学術集会を行っています。

 幸福――ウェルビーイングをもう少し具体的に捉えてみましょう。セリグマン博士は、ウェルビーイングに必要な5つの要素をあげています。これは、PERMAと呼ばれているのですが、Pはポジティブな感情(positive emotion)、Eはエンゲージメント(engagement)、Rはいいつながり(relationship)、Mは人生の意味や目的(meaning)、Aは達成感(achievement)と言われています。

物欲を満たすことは
「幻想の幸せ」だった

 ポジティブな感情は、前向きな気持ちやうれしさだけではなく、安らかさ、優しさ、感謝の気持ちなども含まれます。エンゲージメントというのは、何か熱心にしていることがあったり集中していることがあるというもので、人生の意味というのは、自分がしていることの方向性がしっかり見えているというようなことを指します。達成感は人からの評価ではなく、努力によって自分が少しずつ進歩しているという満足感と捉えてくださればいいでしょう。

 ですから幸福感――ウェルビーイングには、人とのいいつながりがあり、自分が努力していることがあり、少しずつ進歩していて自分の向かう道が見えている、そして穏やかな気分でいられるというようなことだと思います。

 日本語にはウェルビーイングにピッタリ当てはまる言葉は見当たらないようです。それは、これまで日本人はウェルビーイングに類することを、あまり考えたことがなかったからではないでしょうか。だからこそ、「幸福とは何か」を考えることは、とても重要なことだと思います。

 日本では、「アメリカに追いつき追い越せ」といって、冷蔵庫や車などのものが揃えば幸せになれると考えていた時代がありました。その後、アメリカを追い越したと思えるほど経済が成長し、バブルの時代を迎えました。そのときは、ある意味では幸せだったかもしれません。でもそれは、さまざまな問題を消費で紛らわせていた「幻想の幸せ」でした。