新紙幣発行で旧紙幣を使えなくするべき理由、海外の先行事例で分かったメリットPhoto:PIXTA

日本では通常、新紙幣が発行された後も、旧紙幣は引き続き使える。ところが海外の事例を見ると、一定期間たった後に旧紙幣の法的通用力が失効する国もある。その成功事例と失敗事例から、日本でも旧紙幣を使えなくするよう前向きに検討すべき理由を解説する。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

偽札対策としての新紙幣発行
キャッシュレス先進国も実施

 2024年7月3日に日本銀行は新紙幣の発行を開始する。キャッシュレス化が進む昨今、多大なコストをかけて紙幣を新しくするのは無駄ではないかと疑問に思うかもしれない。

 しかし、キャッシュレス化が進んでいても、新たな偽札防止技術を取り入れた新紙幣の発行が時折どうしても必要になる。

 図表1にあるように、世界最速でキャッシュレス化が進んでいるのは北欧のスウェーデンやノルウェイだ。

 近年のそれらの国々の名目GDP(国内総生産)に対する現金(紙幣+コイン)流通高の比率はわずか1%程度である。日常の買い物や、家族や知人間でのお金の受け渡しにおいて「もう何年も現金を使ったことがない」という人々がたくさんいる。それに応じて現金の受け払いをやめた銀行店舗もかなり多い。

 それでも両国とも新紙幣への切り替えを近年実施している。安価なデジタル技術で精巧な偽札を造れる時代だけに、現金を完全廃止しない限り偽札対応のための新紙幣の発行は“宿命”である。

 現在、先進国の多くの中央銀行はCBDC(中銀デジタル通貨)の研究を進めているが、彼らは今のところ現金完全廃止は検討していない。

 G7(先進7カ国)では最もキャッシュレス化が進んでいると思われるイギリスや、上述のスウェーデンですら、現金流通に必要な最低限のインフラは消滅しないよう維持していくべきという議論が国会などで進められてきた。戦争、テロ、自然災害でキャッシュレスのシステムがダウンする恐れや、高齢者などキャッシュレス化についていくのが難しい人々を考慮しての対応である。

 例えばスウェーデンでは、ロシアがウクライナの侵攻を開始した22年2月以降、今後の非常事態を警戒して人々が現金を持つ動きが一時的に現れた。スウェーデンの紙幣流通高の前年比は、22年1月はマイナス2.1%だったが、同年3月に+6.4%、同年5月に+9.8%へと上昇したのである。その後は徐々に沈静化している。